物憂げな夜明け

凛 中3 油彩

ひとみです。気温が上がったり下がったりで服装に悩む毎日です。今回は学生クラスの凛の油絵の作品を紹介します。

斜め上を仰ぎながら佇む猫。全体的に彩度の抑えられた作品で、猫が可愛らしいと言うより、静けさの方が先に漂ってきています。中央の茶トラの猫には、赤や黄色、緑や青色など多様な色使いをしていて、猫の多彩な毛色の表現がなされています。様々な色が乗っているけれど、その静かな雰囲気が壊されないよう彩度を高くしすぎないところに工夫が感じられますね。尻尾の部分は手前に見えるように、対比させた明るい白の縞にすることで遠近感を出しました。
また背景の草原にも様々な色を飛ばすことで、猫だけが浮かないような統一感を演出しています。

この作品の雰囲気を大きく変えたのは、空。元の写真は室内にいる猫でしたので、自分で考えた背景を空想で加えました。薄い雲が広がっていて、あえて快晴にしないところが凛なりの工夫のポイントかなと思います。また奥の森は緑ではなく深い青色を広げることで、夜明け頃のような薄暗く落ち着いた雰囲気を漂わせていますね。

物憂げに見つめる猫の視線は、なにかを待ってたり、物思いにふける様子にも見えますが、オールナイトで遊び疲れた夜明け前の、気だるいぼーっとした雰囲気にも感じられて想像が膨らみます。きっと凛のゆったりのんびりとした性格がこの絵に反映されたのかな?猫は自分の化身かな?と面白く感じられました。

生活の一部のように

璃子 中3 油彩

大竹です。今回ご紹介させて頂くのは、璃子の油彩作品です。彼女は昨年の生徒作品展で人気投票1位を獲得し、70名もの方から感想文が寄せられました。(その作品はこちらをご覧ください。)今回ご紹介するのは、その次に取り組んだ油彩作品で、完成までにおよそ1年を要しています。

もとにしたのは、どこかノスタルジーを感じさせる古い写真。昼食の支度の途中でしょうか、窓から差し込む光に照らされた食材たちが、まるで出番を待っているかのように静かに佇んでいます。年月を感じさせる机や壁、使い込まれた器のひとつひとつからは、そこに暮らす人々の生活や体温のようなものが伝わってきますね。
光と影、その場に存在するすべてを丁寧に拾い上げ、画面の隅々まで描き切っています。卵ひとつをとっても、ずぅっと眺めていられそうです。それだけの密度が1枚のキャンバスの中にあります。しかしそこには、いわゆる“気合”や“勢い”といったものは感じられません(決して悪い意味ではなく)。むしろ、料理という日々の営みの一場面を淡々と積み重ねるように、ごく自然な呼吸で描かれているように感じられます。作者の制作姿勢の表れですね。

油彩において暗部、特に黒の扱いは非常に難しく、使い方によっては主張が強くなりすぎてしまいます。しかし適切に用いられた暗さは、光を引き立てるだけでなく、暗闇そのものにも豊かな表情を生み出します。本作では、暗い部分の中に様々な色が潜み、画面に奥行きと深みを与えています。静かな画面でありながら、見れば見るほど色の重なりや空気の層が感じられる、非常に豊かな表現です。

日々新しい情報に溢れ、移り変わりの早い現代において、一つのものに1年という時間をかけることは決して簡単なことではありません。ましてや、多くのことに追われながら過ごす中学生にとって、その時間の重みはなおさら大きいものでしょう。たった一つの画面と向き合い続け、完成へと辿り着いた時間そのものが、観るものの心を掴んで絵の前に引き留めているのです。

次の作品紹介もきっと一年後になるのでしょう。時間がたっぷりとある大人の皆様は、その日をどうぞお楽しみに! 

環境に合わせた色使い

浩子 中3 アクリル

ひとみです。大学の桜が咲き始めていて新学期が近づいてる実感をしました。今回は学生クラスの浩子の海を泳ぐウミガメとクマノミの作品を紹介します。

ウミガメといえば緑の甲羅というイメージが私にはありましたが、実際見てみると全体的に茶色っぽくてイメージと違うんですよね。海の中での様子を描くともなると、周りは青く澄んだ色なのに、くすんだ重い色で馴染まない…なんてことも。実際浩子も描いてる最中の色の表現には悩んでるところも見受けられました。ですが、甲羅の中にピンクを感じさせる明るめの色を持ってきて、下側や影面にも色数を増やし、自然に見せる努力をしました。また甲羅特有の柄模様もよく観察し、手を抜かない描き方は、さすが真面目な浩子だなと感心します。

最初はウミガメだけを描いていたのですが、そこにクマノミを加えてたことで、画面にぱっとした目の引く色が生まれ、全体が華やかに仕上がっています。ウミガメとクマノミという組み合わせからは『ファインディングニモ』というアニメーション映画を思い起こして、海の情景や物語が浮び楽しい気持ちにさせてくれますね。

海には陽の光がさんさんと降り注いでいます。光の表現として黄色を差し込むことで、ひんやりとした海の雰囲気の中にも暖かさが生まれ、画面全体が柔らかな温もりのある印象に仕上がりました。浩子が求めた完成形になったのではと思います。
環境(背景)に合わせた主役の色使いが、穏やかな雰囲気をより一層感じさせてくれ、温厚な浩子ならではの作品になりました。

同じバイオリンでも

結衣 中2 油彩

大志です!昨日のはなに続き、今日は姉妹のゆいの作品をご紹介します。
こちらの作品は全体に彩度の高い色彩で、背景のオレンジや赤の色味がビビットな為、はっきりとした印象があります。その分、机の色にダークなオリーブグリーンをあしらい、しっかり画面を支えていて、モチーフ全体を引き立てています。色彩感覚の良さを感じました。

バイオリンと弓の斜めのラインが画面に動きを生み出しており、視線が画面全体に流れていくような心地よさがあります。軽やかな上部に対して、下に重心を置いた構図としてまとまりがあり、安定感とリズムの両方を感じられる点が素晴らしいです。

静物画はモチーフを整然とセットするのも良いですが、セザンヌのような遊び心を持たせるのも楽しいですよね?!そうは言ってもバラバラ過ぎると散漫になります。ゆいは物の影を黒ではなく色味を持たせた面として捉えることで、画面全体に統一感を出しました。シャープな形や色が際立ち、画面に迷いのない思い切りの良さが感じられます。
全体として「どう見せたいか」がはっきりしている作品だと感じました。色や構図の選び方にも芯があり、見た人に強く印象を残す力のある一枚になっていると思います。

今後の作品でも、それぞれの作画の個性をさらに引き出してあげられるよう、僕も精進します!

バイオリンの油彩画

花菜 中2 油彩

大志です。学校のワークショップで2週間ほどインドネシアに渡航し、竹やラタン(籐)を使って照明器具を制作してきました!このお話はまたいつかご紹介したいと思っています。
今回は、中学2年生のはなの静物油彩画をご紹介します。

作品のメインはバイオリンですが、他に果物や植物の入った花瓶、ボーダーの布など、たくさんのモチーフが並んでおり、描くのはかなり大変だったのではないかと思います。しかし今回は、姉妹のゆいと同じモチーフを囲み、お互いの作品を見ながら制作していたこともあり、その刺激でモチベーションを維持し、ここまでのクオリティにつながりました。

色彩は全体的に柔らかく優しい雰囲気ですが、花瓶や手前の果物にはエッジやハイライトがしっかり効いています。これにより画面の中に自然な抑揚が生まれ、視線が心地よく画面の中を巡るようなリズムを感じさせてくれます。
木のバイオリンの質感や布のしわ、果物のみずみずしさなど、素材ごとの違いがとても丁寧に描き分けられているのも印象的。「ちゃんと観察しているんだな」と感じられ、ひとつひとつのモチーフと大切に向き合っているのが伝わります。

また影の表現についても、モチーフそれぞれの影だけでなく、床全体が暗くなるように明度の低い藍色で塗られており、そのことでモチーフ同士の距離感や存在感がよりはっきりと伝わってきます。画面下を暗く引き締めたお陰で、上部の空間の広がりも感じられて、テーブルに置いた静物画ですが奥行きのある画面になりました。

情報量の多いモチーフを入れる為にF8号という少々大きめのキャンバスを選んだとはいえ、まとめるのが大変だったことでしょう。それぞれの質感や存在感を丁寧に描き分けている点がとても魅力的な作品だと感じます。今後の作品も楽しみです!

青の視線の流れ

杏和 高1 油彩

ひとみです。今回は学生クラスの杏和が、初めて油彩に挑戦した作品を紹介します。
森の中で羽ばたこうとする瞬間の鳥を描いています。まず目を引くのは凛と胸を張り堂々と翼を広げる動き。雨覆の部分には深い青と白で羽の重なりを濃く、一方で風切羽の部分は弱めに表現しており、付け根から湧き上がる力の強い羽ばたきを感じさせています。翼の動作を強調する為に、尾羽の部分は背景の暗さに溶け込ませるように、あえて深い色のみでまとめているところに構成への意識を感じますね。ベタベタした油絵具に振り回され、フワフワとした羽毛や瞳の表現に苦戦していましたが、「可愛い小鳥が描きたい」のではなく、「たくましい生命力に焦点を当てる」ことを目標とすることで、クオリティーを上げました。

また背景に関しても、鳥がとまっている木をしっかり描くのに対して、あえて奥の木や葉を形で捉えずにぼやけたような描き方をすることで、中央の鳥にフォーカスされるようになっています。色使いも緑だけに頼るのではなく、赤や青、ピンクに黄色などといった様々な色味をまぶすことで単調にならずに、森の豊かさと奥行きを感じさせています。そして画面左上を明るく、右下にかけて徐々に明度を下げることで、柔らかく降り注ぐ光を表現しました。
画面全体に様々な工夫が施され、神秘さを秘めた幻想的な魅力を放つ作品に仕上がりました。

夢のような世界

きと 高1 油彩

夏波です。今回は学生クラスからきとの油彩を紹介します!
葉のない冬の木の枝に、果実のようなあかりが灯っている幻想的なモチーフです。背景は暗く星空のようで、非現実的な空間が作品の世界観を作り上げています。きとは初めて油絵に挑戦したのですが、写真を参考にしながら自由に制作しました。

この絵の主役である木には様々な色を使い、マチエール(盛り上げ)をつけていて目を惹きますね。木の幹は茶色のみで描くのではなく、ピンクや紫色をガサッと塗り重ねています。一見するとミスマッチに見える色の組み合わせが、画面に新鮮さや深みを生み出します。さらに、しっとりとした冷たい暗さ(奥に引っ込んで見える効果=後退色)のフラットな背景と、木のボコボコとした質感(物理的に吐出)の華やかな茶色(手前に飛び出して見える効果=進出色)のコントラストが良いです。そのぶつかり合いが緊張感を持たせつつ前後感を醸し出しています。

また、お花や果実のようなランプの黄色がアクセントになっていて魅力的ですね。背景の色は青をベースにしているため、補色に近い色の取り合わせである黄色がよく映えています。この黄色があることで落ち着きのある静けさの中に、暖かみを感じる夢の中のような雰囲気を生み出せたのです。

きとは穏やかで優しく誠実な人。もっと思い切ってやってもいいかな?と思う場面でも、歯がゆいほどに(笑)マイペースです。この油絵はまるで彼女自身のよう。試行錯誤の末、独自の世界をキャンバスに乗せて作品を完成させました。これから沢山の画材に挑戦して自分の思い描く世界をどんどん絵にしてみてしてくださいね!

思い出を描く

紗季 高1 冴妃

夏波です。今回は学生クラスから、さきの作品をご紹介します!
さきの小さい頃の写真を元に描いています。満開の桜を背に公園で遊んでいる所を両親が写真を撮ったのかな?と想像のできる一枚です。整頓された明度が、カメラのレンズ越しで見たかのようなを演出を与えていますね。
一筆一筆大切に描かれた人物は、明るい表情で柔らかや印象を受けます。平面的に処理された背景の桜は少々荒い描写ではありますが、人物との対比で距離感を出すことに成功しました。

唯一の人工物である赤い滑り台を含めた主役二人に強いコントラストをつけ、堂々と中心に置いた構成が印象的です。安定感のあるどっしりとした構図ながら、桜の枝たちが画面いっぱい自由に広がり、軽やかな動きを加えます。絵を描く上で、デッサン力や色彩の豊かさももちろん重要ですが、メリハリの効いた構図は見違えるように作品の質を高めてくれます。

一点集中型のさき。描きたいところとそうでもないところが顕著に現れてしまうのですが、今回はそれが上手いこと昇華しましたね。絵作りのための取捨選択が無意識であっても、安定した技術を持っているからこそ、ここまで魅力のある絵に仕上がったのだと思います。

主役が引き立つ絵作り

心寧 中3 油彩

春休みをなんとなく過ごしていたらあっという間に2月末で驚いています、夏波です。今回は学生クラスから、心寧の作品をご紹介します!

心寧は高校受験を控える身でありながら「アトリエは勉強の息抜きだから辞めない」と試験直前まで通い続けてくれました。その中で描いたのが今回ご紹介する生き生きと泳ぐペンギンの油彩です。現在は無事に合格を果たし、のびのびと制作を楽しんでいます。

水族館のガラス越しで見ているような、水中の断面を見せる構図が臨場感を作っています。クリアな水の青と大胆な体勢のペンギンが映えて、力強い画面に仕上がりました。写真等の資料から絵画に落とし込む際には、『描写する所』、『簡略化にする所』、『省いてしまう所』を見極め画面を作ります。その点で言うと心寧のこの油彩は、ペンギンの細部は描き込まず、陰影や色に注目していますね。魅力を伝えたい箇所がはっきりとしていて、手を抜く箇所であっても考えながら丁寧に描き進めたことが分かります。全体的にグレートーンで描き、メインとなる水中とペンギンには明度・彩度共にコントラストの差をつけた効果が出ましたね。

また絵の具をペンギンの丸さに沿ってたっぷりと置いているところが良いです。立体感を意識しつつ描き込みのシンプルさに負けないマチエールがつけられていることで、モチーフ自体の魅力が引き立ちました。絵の具の厚みをコントロールすることで、モチーフの関係性が明白になり見やすい絵作りに成功しています。特にペンギンの背中と水面のキラキラとした反射に使われている絵の具のタッチが素晴らしいです!

絵画を描く中で主役を魅力的にするために、メインとなるモチーフだけに力を入れて描くのではなく、あまり重要では無い脇役にシンプルな仕事を施すことで、メインを引き立たせた画面全体の完成度がぐっと上がるのです。

写真から自分だけの表現へ

花音 高2 透明水彩・右下のみ油彩

マユカです。今回は学生クラスより花音の作品群をご紹介していきたいと思います!
主に水彩で女の子をメインに据えた作品たち、写真を元にしながら自身の絵柄に落とし込んでイラストを制作しています。様々な雰囲気で描いていますが、全ての作品に統一感があり、連作のような雰囲気すら感じます。これは表現方法や画風が確立しているからです。水彩の淡く滲むようなグラデーションと、アクリル絵の具のようにかっちりと塗られた面のコントラストの差が、肌の透明感を一層強調し、特に顔のあたりが目立つような描き方になっていることがわかりますね。

「顔のあたりが目立つ」と書きましたが、コントラスト以外にも顔を目立たせる工夫があります。他に比べて明るかったり、目を黒々と強調するなどありますが、一番は描き込みの差にあります。顔→髪→服→その他の順で描かれており、モチベーションが最も高い描き始めに、顔を描くようにしています。その為、写真でピントを合わせるように、滑らかな顔に目が吸い込まれていくのです。また、全体的にハイライトが多めに散りばめられており、宝石のような印象も受けます。きらきらとした質感は光る水面や星空、木漏れ日のように惹きつけられる魅力があり、これも視線を引き込む理由の一つになっています。

ただ、表現したい構図やポーズが先行してしまい、人体のバランスが崩れてしまっている箇所があります。左下のハートを作っているメイドさんの腕が左右でかなり変わってしまっていたり、右上の女の子の肩が手前に来ているにしては小さく見えてしまったり。細かい所ではありますが、リアル調のイラストにおける説得力(人体の完璧さ)というのはとても大切ですので、下描きの時に間違い探しのように注意して確認すると良いでしょう。
花音のこれからの作品も楽しみにしています!