違和感を作る

松尾T ミクストメディア

サトルです。本日は松尾さんの作品をご紹介します。
常に実験的な制作を重ねる松尾さん。2月にブログにアップした前回の作品(こちら)と比べても進化しているのがわかります。

アクリル板の裏から油絵具でガラス絵のように描いたパーツ。写真ですと七宝焼きにも見えるかもしれません。
和紙を張った木製パネルに、パーツと同じ形に穴を開け、パズルのようにはめ込み、はんだ(錫と鉛の合金で、低温で溶けやすい特性を持つ金属)で接着しています。薄い和紙を二枚重ねにして描いており、下の紙にも絵が描かれています。写真ですと見えづらくなってしまいますが、じっくり観察すると薄い線が見えてきます。

手は顔以上に感情や考え方を示す物。人類の文化、歴史、宗教などには必ずと言って良いほど特定のハンドサインが登場します。合掌、指差し、握り拳など様々な形の手が描かれていますね。しかしこちらの作品では意図的に意味をなさない形として描かれているのではないでしょうか。無地の背景に丸みを帯びた線で描かれているからか、特定の感情や思想を感じられません。それに対してアクリル板には猫の一団が太陽の下で寝転がっていいる様な可愛らしい手が描かれています。

様々なものを表す人間の手に対し、猫の手は形が変わるものではないので、ハンドサインは存在しません。そこを逆転させ、人間の手を無感情に描き、猫の手を生き生きと描くことで独特の「違和感」を生み出したのではないでしょうか。

先日、今回の作品で実験したパネルに穴を開けてアクリル板を嵌め込む方法や、はんだを使った画面分割をさらに昇華させた、新しい作品を完成されました。今回の作品よりもさらに複雑な構成にも挑戦し、非常に見応えのある作品に仕上がっていましたので、後日紹介させていただきます。

光を引き出す色の使い方

鈴木M 油彩

マユカです。今回は鈴木さんの作品をご紹介したいと思います。
柔らかな日差しが降り注ぐ、ヨーロッパの文化とも言えるオープンカフェです。こちらはパリのカフェだそうですが、街角のテラス席は特等席ですね。コーヒーの香ばしい香りや、人々のガヤガヤとした会話が絵画から伝わってくるようです。

この作品は雰囲気を特に重視して描かれていました。パラソルの位置や木漏れ日の位置、人々にあたる光の強さなど、辻褄が合うように調整を繰り返され、途中まで描いていたものをやり直して描き直されたりもしていました。よく見てみると、モネやルノワールなどの印象派のような筆運びをされているのでしょうか。精密に書き込むというよりはざっくりと色を置きつつも、特に光の近くや、明るく映っている部分にチューブから出したままのような鮮やかな色を織り交ぜつつ描かれているため、かなり複雑な色味も新鮮に映っています。写実的な表現よりは空間や流れる時間を大事にした一枚ですね。

鈴木さんは影〜光のコントラストの差を強くつけることができているため、細かく描かずとも間延びした印象を受けず、どこを一番見せたいのかがわかるようになっています。思い切った色の差が、作品をより引き締め、美しく昇華するのです。

校長、名画になる!?

藤原 油彩

冬掛けに変えたおかげで、ついつい長めに寝てしまいます、ナツメです。本日は月曜大人クラスより、藤原さんの作品をご紹介します!

ぱっと見は「モナリザ」かのように見えますが、よく見るとそこにいるのはハリー・ポッターに登場する校長先生、ダンブルドアです。「モナリザの構図でダンブルドア先生を描いてみたい!」という発想から制作に挑まれました。中世の女性像とファンタジーの魔法使いという、まったく異なる二つの世界が見事に融合しています。

作中で最も偉大な魔法使いとされる校長の威厳が伝わってきます。どっしりと構えてこちらをまっすぐに見据えるまなざしは静かな貫禄を放ち、モナリザの柔らかな微笑みとは対照的。同じ構図でありながらまったく異なる印象を受けるのが面白いところです。

単なる模写ではなく、元の雰囲気を生かしながら若い女性を老人へと置き換えるという難しい作業が求められました。肌の質感や光の当たり方を調整し、髪やひげ、服の素材感などを細やかに描き分けています。モナリザではなめらかだった手を年齢を感じる骨ばった手に描き換えるなど、細部にまで試行錯誤が重ねられています。
そして何より「似ている」ことにもこだわり、ダンブルドアだと一目でわかるようになりました。長い制作時間の中で粘り強く調整を重ね、描き続けた努力が表れています。

展覧会に出品する際に付けられたタイトルも秀逸なので、ぜひ会場でご覧になってください。思わず「なるほど!」と感心してしまうこと間違いなしです!

空間を遊ぶ

岡崎 油彩

ブログ当番2日続けて大志です。
こちらの作品、青く鮮やかなオアシスの中からこちらをじっと見つめる、普段は出会うことのない18匹の動物たちと目が合います。優しい筆づかいで描かれた彼らの姿は、柔らかな雰囲気をまといながらも、真正面から描かれているせいでしょうか?見る人の心をぐっと引き込む不思議な力を感じさせます。

さらに、動物たちを手前に配置することで、私たちはまるで高台から奥の景色を見渡しているような感覚になります。そこには、どこか神秘的で静寂に包まれた白い世界が広がっており、作品全体に深い奥行きと物語性を与えています。
空は複雑な色味をしており星々が美しく描かれていて、まるで宇宙を直接眺めているように感じます。動物たちの住む地球という「現実」と遠く遠く離れた惑星「幻想」の境界を問いかけているようにも感じました。

岡崎さんの以前の作品を見ても、何か一つのテーマに絞るというより、たくさんのモチーフ、形や空間を自由気ままに組合せて、画面上に一つの世界を作り上げることに心を惹かれている様子です。作者の心の内にある非現実的な風景は、観る人それぞれに違った捉え方がありそうで、それを知ることも大変興味深く思います。
岡崎さんの世界観と筆遣いがマッチした素晴らしい作品、ぜひ生徒作品展で実物をご覧頂き、僕にその感想を教えてもらいたいです!

その背中を追って

鳥光 油彩

大竹です。今回ご紹介させていただくのは、鳥光さんの油彩作品です。
登山をされているお母様の後ろ姿を、お父様が写真に収められた一枚をもとに描かれています。

油彩らしい厚みのある筆使いで、手前の地面にはしっかりとした盛り上がりが感じられます。生い茂る草の緑は何層にも重ねられ、筆跡がそのまま自然の息づかいとなって画面に残っています。絵の具の重なりの一つひとつが、葉の揺らぎや湿った土の匂いを感じさせてくれます。

地面から視線を上に移すと、やわらかな光に包まれた空が広がっています。そこに見える筆のタッチは軽やかで、まるで風が絵の上をすり抜けていくようです。細やかに変化する空の色は、見る人それぞれの記憶と重なり、懐かしいような、切ないような感情を呼び起こします。

画面全体の色味のバランスも見事で、手前の深い緑から、遠くの山並みの青、そして空の淡いピンクや黄色へと、穏やかにグラデーションが変化していきます。暖色と寒色の境が曖昧に溶け合い、山の上に漂う冷たく澄んだ空気を感じさせますね。

先を行くお母様は、まるで奥を指差して何かを伝えているようにも見えます。きっと、撮影者であるお父様に向こうの景色を示しているのでしょう。鑑賞者はお父様の視点に立ち、まだ見ぬその光景に思いを馳せることになります。穏やかな時間の流れと、家族の記憶のあたたかさが静かに伝わってくる一枚です。

太陽に跳ねろ!

木村 油彩

こんにちは、マユカです!今回は木村さんの作品をご紹介したいと思います。

夕焼けを前にジャンプする四人。黄金に輝く太陽が目に眩しく、本物の太陽と同じくらいの強い光を感じますね。太陽を中心に徐々に影を強くしていくことにより、周囲の暗さと対比して白く絵の具を重ねたところが発光して見えるかのような錯覚を覚えます。

赤色〜黄色の範囲を主に使用して描いていますが、影になっている部分や波打ち際のみなど、範囲を決めて使われた青や緑などの寒色が差し色になって画面にメリハリをもたらし、同系色のみを使用した時に起こる「なんかぼんやりしてる…」現象をなくしています。手前にそれらの色を使っているため、情報量が増えて視線が向かい、遠近感もグッと強く感じられる描き方だからこそ、臨場感のある仕上がりになっているのでしょう。

描き込みの量だけでなく、色数の多さでも情報量を増やすことでより見せたいところを強調することができます。情報量を増やしたいけど書き込む場所がない…というときや、色幅が全体的に少ないな…というときは、メインの色と対になる色を手前に増やすと、木村さんのように、見応えのある作品になります。

限りない青

福嶋 油彩

夏掛けが堪えるようになってきました、ナツメです。今回は月曜大人クラスより、福嶋さんの作品をご紹介します!

快晴のもと、鮮やかな青と緑の帆をはためかせ、風を切って進むヨット。実際にご友人と乗っている時に撮影された写真をもとに描かれました。強い日差しのもとで感じる海の音や風の気配までもが伝わってきますね!

吸い込まれそうな深い海は、船が海をかき分けて跳ねた水の薄さ、通り過ぎたあとの泡立ちなど、それぞれの水の表情が巧みに描き分けられています。海面は一色ではなく、深い群青から明るいエメラルドグリーンまで、さまざまな青が使われており、筆跡を残した水面の描写からは、波の揺れや反射する光が生き生きと伝わってきます。手前の濃い青がヨットの白を引き立て、遠くにいくほど色が淡くなることで、空と海が溶け合うような奥行きを感じます。前回も波を主題にした作品を描かれていたので、その経験がしっかりと生かされているように思います。

空や海、帆、そして服に至るまで画面を構成するほとんどの要素が青系の色で占められているため、いかに違いを表現するか苦戦されていました。それでも試行錯誤を重ねながら、微妙な色の変化を探り、豊かな表情を生み出されました。

ヨットをやや斜めに配置した構図も印象的です。風を受けて進む様子が自然に表現され、波に揺れる船の動きまで感じられます。

海の風や光の変化、そして体感としてのスピード感が描き留められた一枚。実際に乗って感じた記憶が画面を通して伝わってくるような、爽快で清々しい作品です。

視線の先には

城内 油彩

大竹です。今回ご紹介させていただくのは、城内さんの油彩作品です。

白馬に乗った笑顔の子どもが、緑の小道をこちらへ向かってくる穏やかな情景が描かれています。モデルは作者のご家族でしょうか。親しみのこもった視線が感じられ、画面全体にあたたかな空気が流れています。

遠くの風景はやわらかい白に包まれ、木々や山々の輪郭が霞むように浮かび上がっています。その淡い空気の層が、手前にかけての草の明るい緑との対比を生み、深い奥行きを作り出しています。奥から手前へと徐々に濃くなる緑のグラデーションは、画面に自然な遠近感を与え、まるで風が草原を渡るかのような広がりを感じさせます。
細やかでありながらも柔らかい筆使いにより、子どもの白いシャツや馬の毛並みには淡い光を含んだ絵肌の美しさが見られます。特に白馬の描写は、身体の立体感や筋肉の流れを繊細な陰影で見事に表現しています。また白い毛並みの中にも、ほんのりと入れられた暖色により、温かな体温が感じられるような色使いになっていますね。

奥からこちらへ向かってくる子どもの姿は、まるで少しずつ大人へと歩みを進める成長の過程にも重なるように思います。その視線の先にはどんな未来が広がっているのでしょうか?静かな希望を宿したその表情が、見る人の胸にあたたかく残ります。

心も走り出す風景

大坪 油彩

ナツメです。今回は月曜大人クラスより大坪さんの作品をご紹介します!車が好きな大坪さん。ご自身で撮られた写真を元に描かれました。

坂道を下る青い車の先には田んぼが広がっています。見ているうちに、車のエンジン音や風の流れまで感じられるようです。遠くに光が差している光景からは、ドライブの途中で「この先には何があるんだろう」と胸が高鳴る瞬間をそのまま切り取ったように感じられます。

マンガの集中線のように一点に向かって雲や田んぼが伸びているため、視線が手前下部から上部へと誘導され、遠近感を強く感じる構図になっています。画面の端に配置された車も描き込みの情報量が多いおかげでしっかりと視線が行き、手前はハッキリ、遠くはぼんやりと差をつけて描写することでよりダイナミックな奥行きが生まれました。

そしてなんと言ってもツヤツヤと光る車体がとても魅力的!好きなだけあって、車の存在感とリアルな描写が見事。マフラーやワイパー、ナンバープレートに至るまで手を抜かず、試行錯誤しながら細やかに描かれています。いつまでも鑑賞したくなるような魅力があり、見れば見るほど愛情を感じます。

坂の向こうに続く光の道は、見る人にも“この先へ進んでみたい”という気持ちを呼び起こしてくれます。描く喜びがそのまま見る人に伝わる、清々しい一枚です。

2枚描くのも意味がある


服部 油彩

本日より鎌倉で個展が始まりました岩田です。授業はお休みさせて頂いておりますが、ブログは今日まで担当いたします。服部さんの作品をご紹介します。

今までに幾多の人が往来したであろう、擦り減り、灰色に変化した石畳の道。幾重にも風雨を受け、最初はもしかしたら若干の艶さえあったかもしれない、茶色く凹凸を湛えた高い壁。
そんな元はと云えば人が作り上げた構築物も、影の世界に埋没することで、まるで岩場と岩場の隙間にできた獣道のような様相を呈す。光差す向こうは、黄色く色づいた深い森のようだ。

左と右の作品は、同じモチーフを描いたにも拘わらず、そうした異なったシーンを見せてくれるところが面白い。とはいえ、作者が私が記したような、そうした自然の中をイメージしているかは定かではないのだが。

海外で撮影した風景写真を元に、当初から2枚、全く異なるアプローチで描き進めようと決めようと挑んだ今回の作品。一体どのように変化をつけて形にしていくのか、今までの作者には見られない新しい試みに、どんな風に料理してくれるのだろうと思った私。結果、これだけ大胆なアプローチをやってのけた作者に敬意を表したい。

右の作品は、削ぎ落して削ぎ落して、もうこれだけで良いんだと着地した作品。そう、これで良いんです。2枚同時にスタートしたからこそ描けた作品。余計な思考、迷いが入っていない分、純度が高い。服部さんが多分、一番やり切ったーって思える作品だったんじゃないかと思う。