途中で画材を変えると?

松尾k デッサン・透明水彩

お久し振りです、ひとみです。本日は松尾さんの鉛筆デッサンと、透明水彩の作品2枚を紹介をしたいと思います。2枚とは言いましたが、同じ作品です。実は3ヶ月ほど前に鉛筆デッサンとして仕上げていたのですが、生徒作品展に出品するために着彩をしたビフォーアフターになります。

画面中央に描かれた、堂々たる姿で佇む坂本龍馬の銅像。
左のデッサンは描写の粗密(擦筆やティッシュで擦り、密度を上げたりぼやかしています)により、奥の町々、手前に見切れた木々、一番手前に来る銅像という3つの構成を描き分け、遠近感と心地の良いリズムのある画面が作り出されています。これで完成にするというのも大いにうなずける完成度だと思います。

右の水彩画は、光の当たる部分には淡い黄色が差し込まれるのに対し、影の部分には冷たく感じる青紫色が用いられることで、補色の関係を巧みに利用し、銅像へ触れた時の温度差まで表現できています。
加えてその色使いは、龍馬の熱い志、武士としての厳格さまで感じさせ、画面全体の力強さを一層際立たせているのです。
一転して背景には澄み切った青空と町並みが広がり、透明水彩ならではの軽やかな青色から白色へのグラデーションが印象的で、さわやかですね。その柔らかな色の移ろいとはっきりとした銅像の色合いで対比が生まれ、より主役へと目を引く導線となっています。

しかし一度『鉛筆デッサン』として完成とするほど描き込んだ絵というのは、かなり鉛筆の鉛が乗っています。着彩のし始めには絵の具を弾いてしまい、なかなか定着せず苦労されました。通常の透明水彩の下描きは、ここまではっきりとした明暗や立体感はつけないので、デッサンをベースとした絵に着彩をしたからこそ生まれた、独特の魅力が見どころと言えるでしょう。

息づく山

菊地 透明水彩

大竹です。今回ご紹介させていただくのは、菊地さんの水彩画作品です。
モチーフは四国・吉野川の山桜。山肌を覆うように咲く花々の香りが、画面からふわりと漂ってくるようです。

手前・中間・奥と、それぞれに距離の異なる山々が丁寧に描き分けられ、空気の層までも感じさせます。淡くにじむ桜の色合いと、重なり合う緑のグラデーションは、春のやわらかな光に包まれた山の息づかいを伝えてくれます。
陽光を受けて輝く草花は、まるで山そのものが光を放っているかのよう。透明水彩ならではの優しい発色と透けるような色の重なりが、こうした穏やかな風景によく馴染み、柔らかい時間の流れを感じさせます。
そして何より、ひと筆ひと筆を誠実に重ねていくその仕事ぶりに、菊地さんの制作姿勢が表れていますね。普段から同じ写真を何枚も繰り返し描き、納得のいくまで粘り強く取り組まれており、そうした積み重ねが、静けさの中にも確かな生命力を宿した画面を生み出しています。

こちらは菊地さんにゆかりのある風景なのでしょうか?穏やかな情景の中に、静かな郷愁がにじむようにも思います。こちらの作品は展覧会にて展示予定です。ぜひ会場で、実物の繊細な絵の具の重なりと空気感をご覧ください。

絵としての演出を


加藤 透明水彩

岩田です。今回は、加藤さんの作品をご紹介します。

こちら、福島県羽鳥湖高原にあるブリテッィッシュヒルズという施設。パスポートのいらない英国とうたっているだけあって、ウェブサイトを見てもイギリスをまるっと再現した世界が広がっているエリアのようですが、そうした意味でも、しっかり赤いテレホンボックスを描いているのだけど、やはりどこか日本的な風情を感じさせるのがこの絵の面白いところです。

加藤さん、透明水彩をだいぶ自分のものにしてきているようですね。滲みを上手く使いながら色を重ね、透明水彩の特性を理解し描き進めているのが分かります。焦って過度に馴染ませたような感じがまるでありません。

特に今回は、手前の木に対して、後ろにあるグレーの建物をどうやって描くか、そして両者の距離感をどのように出そうかといったところがポイントだったと思います。幹の部分はまだ良いのですが、細かい枝葉の表現をいかにして描くかが最も頭を悩ませたところかもしれません。葉を除けながら建物の色を置いていくのは、さぞかし苦労したと思いますが、おおよそ加藤さんが思い描いたイメージに近づけたのではないでしょうか。

あとはもう少し、色で遊ぶことを楽しんでもらえたらと感じます。
写真を参考にし過ぎると、仕上がった絵が何となくあっさり見えることもあるので、特に緑をより活き活きとした色に、かといってビリジアンを多用し過ぎて絵の具そのままの色にならぬよう、自分なりに「絵」としての演出をしてみましょう。

眼差しの先


室橋 左 透明水彩 / 右 油彩

 

大竹です。明るい時間が随分と長くなってきましたね。何をするにも寒すぎず暑すぎず、丁度良い季節です。
さて、今回ご紹介させて頂くのは、室橋さんによる水彩画と油彩画です。

左の作品は、透明水彩で描かれた古い町並みの風景画です。これまでにも多くの水彩画を制作されている室橋さんらしく、丁寧な筆づかいと繊細な色使いが光る一枚。木造建築の味わい深い質感や、遠くの山並みへと続く空気感の描写が見事で、静かな時間の流れを感じさせてくれます。雨上がりなのでしょうか、濡れた地面が湿気を帯びた空気の匂いまでも作っているようです。吊るされた2つの茶色いボールは杉玉といって、新酒が出来た合図として毎年青い球状の杉が吊るされ、茶色く枯れていく事で酒の熟成具合を知らせていたそうです。なので、酒屋さんが並んでいる事が分かりますね。そうした絵を読み解く要素も面白い1枚です。

右の油彩画のモデルはお孫さん。ルービックキューブを触る指先や表情はしっかりと観察し、子どもらしい赤みを帯びた色で描かれています。特に指は第二の表情とも言えるほど、感情や情緒を表現する事が出来、こちらの作品でも気を使われて描かれているのでしょう。
青い背景は知的なイメージをもたらし、赤い肌やキューブを引き立てています。グレーの服は有彩色を入り交ぜて無機質になりすぎないよう工夫されていますね。油絵ならではの重厚な色合いと質感が、人物の存在感をより一層浮かび上がらせています。作者の愛孫に対する慈愛の眼差しを通じ、我々鑑賞者もその可愛らしい姿を見る事が出来るのでしょう。

技法もテーマも異なる2作品ですが、どちらも室橋さんの誠実なまなざしと、積み重ねてこられた制作の歩みが感じられますね。室橋さんは透明水彩をしばらく描いた後、画材を油彩に変更し『孫シリーズ』を描き始めました。(ちなみに現在は二人目の孫の油彩を一旦お休みし【日本画】にチャレンジしています!)次の作品も楽しみにしております!

枚数を重ねて


菊地 透明水彩

 大竹です。今回ご紹介させて頂くのは、菊池さんの水彩画です。
こちらの夕日を背にした夫婦岩の風景は、何枚も同じものを描かれています。1枚描いては改善点を見つけ、次に活かしてはまた新たな課題を見つけ、その次にまた改善をして…と、修練を重ねてこの1枚に辿り着きました。夕日に照らされて金色に輝く雲、逆光で黒いシルエットとなっている岩との対比が美しいですね。波の立たない静かな水面の表情も、1日の終わりを穏やかに迎えてくれる様な情緒があります。薄くサラッと仕上げている様に見える空のグラデーションも、水や絵の具の量・筆の動かし方を模索しながら描かれています。乾けば何度も直せるアクリルや油絵と違い、水彩は一発勝負。最高の1枚に至る為、日々同じ絵に繰り返し向かう姿勢は、その爪の垢を春休みが抜け切らぬ学生達へ配布させて頂きたく思います…。

こちらの桜の風景も何枚も描かれています。空の青、桜の桜色、土手の黄緑と3色に分かれた景色の色が気持ちの良い風景ですね。左の1枚目では枝が少なかったので、2枚目では枝をしっかり観察して描いています。少し土手がベタ塗り気味だったり、山の形がいかにもな描かれ方になっているところもありますが、それはまた今後の制作の課題として活かされていくのでしょう。思った通りにいかないもどかしさもあるかと思いますが、それはまだまだ伸び代があるという事。成長する自分自身をも楽しみながら制作していって頂ければと思います。

経験を描き留める


下村 透明水彩

大学の授業が始まりいよいよあと一年かと感慨に耽っています、ナツメです。本日は下村さんの作品をご紹介します!

こちらは佐賀県にある祐徳稲荷神社。ご自身で撮影された写真をもとに、透明水彩で描かれました。
天気の良い日、風鈴がずらりと吊るされた参道。階段手前のお母様、少し先を行くお父様が、風鈴に迎え入れられているような構図となっていて印象的です。色とりどりの短冊が揺れ、涼やかな音が聞こえてきそうな清々しい空気感。思わずその場に立っているような気持ちになりますね。鮮やかな朱色の手すりや石階段、風鈴の飾られている木枠など、遠くへ続く道を強調する為に手前は濃く、奥へ行くほど淡く描くことで奥行きが自然に表現されています。上くへスッと抜けていくような遠近感がとてもきれいです。

初めての透明水彩ということで慣れない画材に最初は緊張しながら薄く塗られていましたが、途中から度胸も付き濃い色を重ねたことで画面にメリハリが生まれ、淡い部分との対比がより引き立つように。上段にいる人々の後ろ姿からも、風鈴を楽しむ様子が伝わってきます。
風鈴の短冊は水彩ではなく色鉛筆で彩色しています。色鮮やかに仕上げると同時に、細かな部分も描けるので、数の多さやにぎやかな雰囲気を効果的に表すことができました。また、背景の木々を短冊のスペース分塗り残すのは至難の技なので、今回は一度うすい緑を塗った上に重ねて着色するという方法を取りました。

デッサンが終わって初めてご自分で選ばれた題材、楽しんで描けていたら何よりです。実際に訪れた場所を描いていることもあって、現地の空気感やご本人の視点がしっかり伝わってきます。写真も素敵ですが、「これは!」という場面は、軽いスケッチでも良いので絵にして残すのもオススメです。足を運んだ場所で感じたこと、思い出深い瞬間を絵に描き留めることで、その記憶はより豊かに刻まれていくはずです。

優しいタッチと対照的に


木佐貫 透明水彩

こんにちは、マユカです!今回は木佐貫さんの作品をご紹介していきたいと思います。

右の作品は紅茶と花、これはラベンダーでしょうか。左の作品は木に止まるアオバズクが描かれています。どちらも透明水彩らしい優しい雰囲気のある作品ですが、メインモチーフにしっかりと焦点を当て、他の部分はすこしぼやかして描き上げることでピントの調節をすることで自然な遠近感の表現がされています。
特に右の作品は大きくぼかす背景がないにもかかわらず、ティーカップにすぐ目がいくのはやはりカップの反射やツヤにより陶器の質感がパキッと硬そうに描かれているからこそ、背景や花のように滲んでふんわりした質感が特徴的な水彩画でいっそう美しく映えるのでしょう。影の色が強く濃いのも、メリハリが出てより見やすく感じます。どちらも同系色と同じ彩度でまとめられているため一体感のある仕上がりになっていますね。

今回、木佐貫さんはアオバズクのふわふわとした感触を出すことに少し苦戦しておりましたが、水彩のにじみを利用して輪郭線をふわっとさせ、胸元の羽の模様も絵具の重なりで表現することで羽の柔らかさを出し、明るい背景との対比を使って手前を暗く見せることにより、くっきりとした輪郭線が無くてもアオバズクが際立たせることに成功しています。

画材の特性を使いこなすことでぐっとリアリティの高い作品に仕上がります。木佐貫さんは、そういった画材の特性を理解しているからこそ水彩の水分量を調節し、ピントを合わせたり、反対にぼかしたりと画面の見え方をコントロールすることが出来ているのでしょう。

目に見えないところまで


川上 透明水

サヤカです。4月に入り、新生活を迎えた方も多いかと思います。体調に気をつけつつ、無理せず頑張りましょう!

今回は大人クラスの川上さんの作品をご紹介します。前回・前々回ブログで紹介させていただいた時も、シズル感満載の食品を描かれていましたが、今回も引き続き食べ物を魅力的に描かれました。

どちらの作品も潔くモチーフをセンターに置き、まるで自分がテーブルを目の前にしているような臨場感がありますね。シンプルな構図で描くことによって、食べ物を美味しそうに描きたい!という川上さんの思いがストレートに伝わってきます。

食品の温度が伝わってくるような描き込みも素晴らしいですが、現場(飲食店)の雰囲気を感じさせる光の描き方がさらに臨場感を生んでいます。光は目に見えませんが、作品の趣を決める大きな要素です。左のオムライスは、卵やソースに強いハイライトが入っていることから、日差しが気持ちい日の昼下がり、右の冷麺は、寒色でまとまっていて冷房が効いているひんやりとした店内を想像します。透明水彩で光を描く場合、塗り残したり、逆に影を作ったりすることで表現できますが、完全に塗り残しても、暗くしすぎても光と影を表現できるわけではなく、調節が難しいです。モチーフを観察した上で、どんな光を表現したいのかを考えなくてはいけません。

私は無類の冷麺好きなのでブログ執筆中も冷麺欲が暴走しそうで大変でした(笑)おいしかったという感想だけでなく、食べた日の天気や感情まで想像してしまうような素敵な作品でした。川上さんの新しい作品も楽しみにしています!

期待を背に


松下 透明水彩

まだまだマスクが手放せません、ナツメです。今日は日曜クラスの松下さんの作品をご紹介します!

これまで油絵でご家族の姿を描かれていた松下さんですが、今回は水彩画で家族を描くことに挑戦されました。毎年元住吉で開催される『住吉神社の夏祭り』、息子さんが楽しげに屋台を巡る様子を描いた一枚です。  私も昨年このお祭りに訪れましたが、作品から伝わる臨場感に思わず「ああ、あの場所だ!」と懐かしさを覚えました。

金魚すくいにリンゴ飴、じゃがバタに焼きそば、ヨーヨー釣り……所狭しと並ぶ色とりどりの屋台は、小学生にとってまさに夢のような世界。次はどこへ行こうかと足早に進む息子さんの後ろ姿には、大冒険に胸を躍らせる子どもらしい無邪気さがありながら、どこか勇者のような凛々しさも漂います。

手前には落ち着いた無彩色に近い色を使い、奥に進むにつれて暖色を増やすことで、屋台の楽しそうな様子に加え、「向こうには何があるんだろう?」という息子さんの期待感やワクワクする気持ちが伝わってきますね!

画面の中の人や建物が非常に多く、描き込みすぎてもごちゃごちゃして見辛くしまう、でもそつなく描くと今度は雑多な雰囲気が出ない…という難しい画ですが、手前を緻密に描くことで情報量をしっかり持たせつつ、奥へ進むにつれてディテールを省略することで見やすさと臨場感が両立しています。さらに、主役である息子さんは、周囲よりも陰影のコントラストを強くして際立たせ、視線が自然と彼に向かうよう工夫されています。しっかりと存在感がありながらも背景が主役よりも主張しすぎない巧みなバランス加減です。

今までの油絵とはまた違った、水彩ならではの透明感やにじみを活かした画面。新しい技法にも果敢に挑戦しながら、ここまで完成度の高い作品を仕上げられる松下さんの表現の幅の広さを感じます。

伸び伸びと、大らかに


田 透明水彩

岩田です。今回は、田さんの作品をご紹介します。

こちらは、ハガキサイズ位の大きさの画用紙に描いた作品。
実際にご自身で行かれた旅行先で撮った写真を元にしています。小さいながらも、下描きから丁寧に描き進め、しっかりと時間をかけて完成に漕ぎつけました。

パース感覚を養いたいということで、建物や内装を中心に今まで描いてきた田さん。
今回は、建物単体ではなく、それらが風景の中に溶け込んだかたちを描くことで、むしろパースを気にし過ぎず、肩の力を抜いて描けたのかなと感じています。
そうした意味では、建物が少し歪んで見えるものの、逆に作者の大らかな人柄や、やさしさが素直に絵に反映されていて、観ているこちらが、何となく和んでくるのです。

描いていく中で、路面や木々、建物の質感の違いをどのように出したら良いかというところに特に関心を持っていたようで、画面が小さい中でも面相筆を使って、それらを描き分けていこうという前向きな気持ちが絵からも見えます。
まだ透明水彩で描いた枚数が少なく、少し躊躇しながら進めていたこともあり、中々思うようにいかなかった部分もあったようですが、同じ画材で描いている周りの生徒さんにもアドバイスを求めたり、途中経過を参考にしたりしながら楽しんで描けたようです。

次は、あらたに鳥をモチーフに描き始めた田さん。
先ずは、カチッとしたものでなく、そうした動植物から描いていく方が、作者にとっては、上達する近道かもしれません。新作もどうぞ伸び伸びと、楽しんで描いていって欲しいです。