夏の記憶をとどめる

山本 岩絵具/和紙・パネル

大竹です。今回ご紹介するのは、山本さんによる日本画の作品です。

ひまわりといえば、太陽に向かって真っ直ぐ咲く姿が象徴的ですが、本作では盛りを過ぎているのか、うなだれながらもなお鮮やかな黄色を放つ姿が表現されています。花びらの一枚一枚に残る夏の香りは、過ぎ去ろうとする季節を惜しむかのようで、観る者にやがて地に落ちていく未来の時間までも想像させます。少ししおれたひまわりを選び取った眼差しに、作者の感性の豊かさが表れていますね。花の美しさは、決して瑞々しい瞬間だけに宿るものではなく、弱さや衰えの中にも情緒や美が存在することを伝えてくれるかのようです。夏の終わりに漂うもの哀しさは、どこか懐かしい気持ちを呼び起こし、心を静かに震わせます。私はこちらの作品を拝見した時、井上陽水の少年時代が頭の中を流れていきました。少し切ない気持ちになってくるのは、まだひまわりたちが眩しいほどの黄色を有しているからなのでしょうか。

背景の青も印象的で、夏の強い日差しの熱感というより、湿度を帯びた空気を思わせるような柔らかい青で描かれており、岩絵の具の持つ質感が巧みに活かされています。この青があることで、ひまわりの黄色がいっそう鮮やかに浮かび上がり、画面全体に静かな深みを添えています。日本画ならではの重なりと透明感が、季節の移ろいを鮮やかに浮かび上がらせ、鑑賞者の心に余韻を残す味わい深い作品です。

暑さも落ち着く早朝

林 岩絵具/和紙・パネル

こんにちは、マユカです!今回は林さんの日本画をご紹介していきたいと思います。

青の冴えわたる早朝に美しく鮮やかなピンクを見せる朝顔を描きました。明るい青ではなく、海のように深い青を使用しているため、ピンク色がより際立ち画面の中で一層映えています。少し眠たい朝に朝顔の咲いているところを見た時の、少し目の覚めるような感覚がこの作品からも感じられますね。画面下の朝顔はその花の形をしっかりと感じさせる立体感と花びらの厚みさえ感じるような陰影がついており、瑞々しさのある質感がしっかりと描写されています。

よく見てみれば一際大きな朝顔の隣には、膨らみ開花を待つ蕾が。左の支柱に絡まる蔦に透ける赤や、支柱の留め具などの観察眼あふれる細かな描写が林さんの作品を魅力的なものにしており、情景にリアリティを付加し、説得力が生まれています。また、全体的に暗い背景が夜をイメージさせるのですが、朝に咲く花がメインにあしらわれているというアンバランスさに見る人を惹きつけてくれるような魅力があり、配色の美しさだけではなくそこから得られるイメージを利用した画面の調整がとても上手いと感じました。夏の茹だるような暑さの中でも、涼しさを感じられる素敵な作品ですね。

あんなにも暑くてビタミンカラーの似合った今年の夏も終わりに近づき、最近は少しずつ朝と夜に秋の風を感じるようになりました。季節の変わり目は体調を崩される方も多いので、皆様もご自愛くださいませ。

夏の彩り

釘宮 岩絵具/和紙・パネル

北海道旅行から帰ってきてこちらの蒸し暑さに悲鳴をあげています、ナツメです。本日は日曜大人クラスより釘宮さんの作品をご紹介します!
タチアオイをモチーフに日本画を描かれました。この地域でも道端や庭先で見かけることができる身近な花です。

画面いっぱいに広がるタチアオイは、下から上へと連なる花々のリズムがとても印象的です。茎の縦のラインがすっきりと構図を支え、その上に連なる花がまるで空に向かって舞い上がっていくかのよう。背景には淡い水色から緑がかった色へのグラデーションが用いられており、花々の鮮やかなピンクを一層際立たせています。空の透明感と花の柔らかな質感が調和し、画面全体に爽やかさと清々しさが広がっています。また、ピンクの花の中に白い花を混ぜ込むことで、画面に軽やかな変化が生まれています。単色で埋め尽くすのではなく、あえて濃淡をつけ、ところどころに明るい部分を加えることで、一つひとつの花が際立って見えるよう工夫されています。

制作の過程では、まず胡粉で花や葉の部分を下塗りし、その上から色を重ねて仕上げることで、発色の明るさや絵具の重なりに奥行きが生まれ、花の軽やかさや光のあたり具合まで感じさせる仕上がりになっています。日本画の技法は一見シンプルに見えても、ごまかしがききにくく、ひとつひとつの花びらや葉を丁寧に描き込まなければ成立しません。そのため、根気強い作業の積み重ねが必要になります。とくにタチアオイのように花が無数に連なる植物を題材とする場合、同じ形を繰り返すだけでは単調になってしまうため、それぞれの花に微妙な違いをつけながら描き分けていくことが大切です。非常に根気のいる作業だったと思いますが、その丁寧な仕事ぶりが作品全体に生き生きとした表情を与えています。

堂々と咲き誇る姿でありながら、気品を感じさせる佇まいが魅力的です。花言葉の「大望」にふさわしく、凛とした存在感と上品な美しさを兼ね備えた一枚となりました。

ひそやかな輝き

木佐貫 岩絵具/和紙・パネル

大竹です。今回ご紹介させていただくのは、木佐貫さんによる日本画作品「睡蓮」です。

睡蓮という名は、「夜になると花を閉じ、まるで眠っているように見える」ことから由来しているといいます。夏に咲く花でありながら、静けさや神秘性をたたえ、日本画の題材として数多く描かれてきたポピュラーな存在です。

こちらの作品では、幾重にも塗り重ねられた青が、まるで水の奥深さを映し出すかのようにグラデーションを描き、観る者を引き込んでいきます。その深い水の世界から、まるで白い睡蓮が光をまとって浮かび上がってくる様にも見えてきますね。その花びらには、薄く透き通るような柔らかさと、光を受けて宝石のように輝く部分とが共存しており、神々しくも美しい姿を描き出しています。
大きな葉の落ち着いた緑と、花の清らかな白、そして淡い桃色との対比は華やかで、まるで水面に咲く舞台の主役を見ているかのようです。岩絵具の質感により、その美しさは一層際立ち、画面全体に上品でやわらかな印象を与えています。

水面の深みを出すために幾度も色を重ね、花びら一枚一枚の表情を探りながら描き出したことが伝わってきます。決して派手さに頼らず、ひと筆ひと筆を誠実に積み上げてきたからこそ、この一輪の睡蓮は凛とした存在感を放っているのでしょう。

遊び心を映す4人組


小嶋 岩絵具/和紙・パネル

大竹です。今回ご紹介させていただくのは、小嶋さんの日本画作品です。
画面いっぱいに並んだ、愛らしい張り子のような人形たち。それぞれ色や表情、形(体型?)までが異なり、見比べているだけで物語が浮かんでくるようです。喜怒哀楽…ならぬ「喜・驚・楽・悩」とでも言いましょうか、個性豊かな表情が見る人をクスリと笑わせます。4体それぞれに春夏秋冬の花々が描かれており、夏の人形は首元が浴衣のような襟元になっていたり、冬の人形はマフラーを巻いた姿になっていたり(この子の表情、寒さに参っていそうで可愛らしいですね)と、細部にも作者の遊び心が光ります。

日本画は平面的な表現と相性が良く、このようなイラスト的な作風ともマッチしています。背景にはあえて筆跡を残し、和紙の上に塗り重ねた絵の具の質感が、柔らかくも豊かな奥行きを生み出しています。このざらっとした温かみは、日本画ならではの魅力のひとつですね。今作は茶色で塗られ、和の雰囲気に仕上げられていますが、小嶋さんの作風でしたらパステルカラーのような柔らかい色でも、ポップに映えて合いそうです。

古来より日本人は、ゆるくて愛嬌のあるキャラクターを生み出すことが得意な民族かもしれません。古墳時代の埴輪や、江戸時代の浮世絵に描かれた擬人化された動物たち、そして現代のご当地ゆるキャラまで——その系譜は脈々と続いています。見ているだけで心がほどけ、ふっと笑みがこぼれる…そんな日本的なかわいらしさと遊び心が、この作品に詰まっているように思います。

日本画特有のフラットな背景


菊地  岩絵具・和紙・パネル

サトルです!ワークショップや小原先生の展示など、イベント情報が続いていますが、今日は菊地さんの日本画をご紹介します。

黄土で塗られた背景と、緻密に描かれた紫陽花の対比が効いた日本画らしさを感じる作品です。無地の背景に物が描いているという構図も日本画らしいのですが、この作品を見た時に感じる、なんとも言えない懐かしさの様な感覚こそが日本画らしさなのです。

優しい雰囲気でありながら、近くで見るとその力強い描写に驚かされます。花よりも大きく描かれた葉は葉脈だけでなく表面の微妙な凹凸や色の違いまで細かく再現されており、紫陽花は花弁一つ一つのピンクから白へのグラデーション、花弁同士の複雑な重なりを誤魔化すことなくしっかりと描き切っています。

背景をフラットに塗ると難しくなるのが、モチーフが背景に馴染まなくてシールの様になってしまいがちな所です。特に、リアルな描写がしてあると更に背景とのバランスを取るのが難しくなりますが、菊地さんは背景とぶつかる紫陽花の輪郭部分を鈍い色味で描き、葉の先端や茎の輪郭などは背景に近い明るい黄色で溶け込ませる事でバランスをとりました。また、背景を完全にフラットな塗りにするのではなく、パステルなども使い一色の中に豊かな質感を生み出したおかげで紫陽花との相性が良くなったのでしょう。

物をしっかり描く事と画面全体のバランスを取る事を両立する難しさ。この作品からは菊池さんの美しい完成度と高い技術を感じました。紫陽花の季節は初夏。季節に合わせて絵を飾ることは、生活に風情を添える日本人ならではの美しい習慣ではありますが、この絵を見ていると今ほど暑くなかった頃を思い出し、きっと冬になったら夏を思い出して暖かい気持ちになるでしょう。一般的な常識にとらわれず、一年中部屋に飾っていたくなる素敵な作品です。

♬カエルの歌が…


小川 岩絵具/和紙・パネル

大竹です。今回ご紹介させて頂くのは、小川さんによる日本画です。岩絵具を用いて、夜の水辺に佇むカエルの姿を描いています。

カエルは、古くは鳥獣戯画に登場するユーモラスな姿から、河鍋暁斎のような近代絵師がその魅力に取り憑かれ、墓標にまでカエルを彫ったほど、日本人に長く親しまれてきたモチーフです。現代でも「カエルのうた」や可愛らしいイラストなど、幅広い表現の中に生き続けています。
今まで油彩で生き物や風景を題材に取り組まれてきた小川さんですが、今回はそんなカエルを日本画ならではの繊細な質感と静かな美しさを活かして描かれています。

背景の深い暗さの中には、かすかに青や紫の色味が溶け込み、静寂に包まれた水辺の空気を思わせます。その中で、鮮やかな黄緑のカエルが美しく浮かび上がり、画面に生命感とリズムを与えていますね。特にカエルの喉の袋、鳴嚢(めいのう)のふくらんだ透明感のある質感は見事で、今まさに声が響いてきそうな臨場感があり、自然の息吹を感じさせてくれます。
葉の質感もまた素晴らしく、岩絵具の粒子感と相まって、しっとりと湿った水辺の空気を感じるような味わい深い表現に仕上がっています。

この作品をじっと眺めていると、夜の水辺にひとり佇み、自然の中にひそむ小さな命の息づかいに声に耳を澄ませているような気持ちになります。日々慌ただしく過ぎていく時間の中で、ふと立ち止まりたくなるような、静かな感情を呼び起こす一枚だと思います。

脇役の役割


髙橋 岩絵具/和紙・パネル

ナツメです。本日は水曜大人クラスより高橋さんの日本画をご紹介します!
春の庭先に一匹の猫がちょこんと佇む、和やかな風景を描かれました。

まず目に留まるのは、猫の毛並みの丁寧な表現です。黒と白の模様をした猫の柔らかな毛並みが一本一本の流れまで意識されて描かれており、実際に撫でたときの手触りまで想像できるほど。白い毛にはやわらかな光があたったような透明感があり、黒い部分はしっとりとした艶を感じさせます。日本画ならではの岩絵具のマットな質感が、猫の毛の質まで表現でき見応えがあります。

また体の丸みや姿勢のバランスも自然に捉えられており、特に顔まわりの表情にはやさしさや気品が宿っています。くるんと巻いた尻尾やそのからちょこんと覗く前足など、小さな動きの細やかな観察から、モデルとなった猫への愛情や敬意が感じられます。

そして特に注目したいのは、猫を取り囲む環境の描き方と、それをどう画面にまとめているかという構成力の部分です。背景には柵や庭の芝生、雲に桜、そして木の床と、モチーフがとても多く描かれています。制作の過程では各要素の主張の出し方に迷われている様子もありましたが、それでも決して画面がごちゃごちゃとせず、視線は自然と猫に集まっていきます。これは、それぞれの要素の存在感を調整しながら、全体のバランスを丁寧に整えていったからこそ成せること。猫を主役として見せるために、背景は描きすぎず、でも手を抜かず、しっかりと場面を成立させていることが伝わってきます。

静かで穏やかな場面でありながら、そこにあるすべての要素に意味があり、見せる順番や配置もよく練られています。描くものが多いほど画面をまとめるのは難しくなりますが、それぞれが猫という主役を引き立てるように機能しており、技術的にも感覚的にも非常に優れた視点で描かれた一枚です。

薄塗りで墨の線を活かす


興津  岩絵具・和紙・パネル

サトルです。今回は日曜クラスから興津さんの描かれた日本画の紹介です。

白い孔雀の凛とした佇まい、松の木の力強さ、牡丹の花の色鮮やかさ。それぞれの魅力が呼応し合い、洗礼された画面写し出しています。

興津さんは最初に墨で形を描く『骨描き』を長い時間をかけてじっくりと行っていました。細い筆を使い、孔雀の羽毛や松の葉などを一本一本丁寧に線描されており、「このまま墨絵として、岩絵具を塗らなくても良いのでは?」と思わされる程の完成度でした。特に松の葉の描写の細かさは凄まじいもので、触った時のチクチクとした感覚まで伝わる程。

絵の具を塗る際も墨の仕事を消さない様、絵の具を薄く塗り墨の線が透けて見えてくる様に仕上げられています。孔雀の白い羽毛の表現は美しいですね。地塗りの黄色が下から透けて見え、揺れ動く柔らかい羽毛の雰囲気を感じます。松の木は墨の残し加減が絶妙で、葉の表現はもちろん、うねった幹の形の表現もかっこいいですね。

興津さんは今までデッサンや油絵を描かれていたので、線だけで物を描く事をしていませんでした。今回の作品は興津さんの隠された才能を開花させた一枚だと思います。日本画を経て今後の興津さんの作品がどう変化していくのか、とても楽しみです。

冬の色を描く


髙橋 岩絵具/和紙・パネル

今回ご紹介するのは、髙橋さんの日本画の作品です。静かな季節の空気を感じさせてくれる冬の日本画ですね。雪の重みでゆったりと枝垂れる姿は、まるで厳しい寒さに耐え忍んでいるかのよう。

画面の左半分に重心を寄せ、右側はほぼ余白にする構図により、絵の中に空間の広がりを生み出しています。あえて全体を埋めず、余白を活かすことで日本画らしい「間」の美しさが引き立ちました。

南天の実の丸みや影を、一粒一粒丁寧に描き分け、自然な立体感が生まれました。葉の枯れ色にはグラデーションが施され、冬の植物のもつ美しさと儚さを繊細に表現されています。
主役の赤を引き立たせるように、背景には緑系の色を選び、複数の岩絵具を何度も重ねて豊かな色面を作り出した事で、奥行きや静けさが見事に演出されました。
最後に置いた降り積もる雪の白は、岩絵具の荒い粒子を活かし浮かび上がって見えます。
しんと冷えた空気が漂う冬の寂寥感を感じさせる、美しいコントラストが見事ですね。

日本画は馴染みのない画材で苦労されたかと思いますが、その分、絵具や構図に工夫を凝らしながら表現された深みのある美しさは、鑑賞者の心を引き寄せるでしょう。冬という、過酷な季節の中にある生命の色とぬくもりを、観る人にそっと手渡してくれるような一枚です。