「重さと軽さ」「静と動」のハーモニー

黒永 岩絵具/和紙・パネル

大志です!今回は月曜大人クラスより、黒永さんの岩絵具作品をご紹介します!

まず心を奪われるのは、水中を思わせる青緑の色合いです。濃淡が幾重にも重なり、和紙の質感と相まって、水の揺らぎや深みを感じさせますね!ただの青ではなく、まるで底知れぬ湖に差し込む光が層をなしているようで、静けさの中に神秘的な奥行きが広がっています。

その中をゆったりと漂う、堂々としたワニ。大地を思わせる重厚さを持ちながら、銀白色に輝く背は水面に反射する光を帯びています!重さと同時に透明感や柔らかさも感じられるのが不思議ですね。これは岩絵具を何層にも重ねることで生まれる独特の存在感だと思います。

最後に、アクセントになっている周囲に描かれた「泡」。水面に浮かぶ泡は軽やかに広がり、重厚なワニとの対比で画面に心地よいリズムを与えていますね。この存在により、静と動、重と軽の調和がとても美しくなり、全体を生き生きと輝かせています。
水中で相反するものが響き合う瞬間を捉えたこの作品、眺めていると自分も水の中に溶け込み、ワニと一緒に漂っているような、不思議な感覚に包まれました。

色の密度

木村 岩絵具/和紙・パネル

マユカです!昨日の松下さんのニワトリに続き、本日は木村さんの鶏をご紹介します。

伊藤若冲を思わせるような華やかで繊細な鶏の日本画です。尾長鶏の高貴な雰囲気が、深みのある岩絵具の色味とよく合っていますね。羽のグラデーションはもちろん、特有の少し艶々とした質感まで感じさせる描き込みが素晴らしいです。
パッと見るだけでも華美だな、リアルだなと感じる木村さんの作品ですが、その豪華さの所以は、黒の幅の広さだと思います。画面上部から下部に向かって、緑→赤と混ざる色が変わり、鶏の周囲は黄味がかっており、黒がただ空間を埋めるためや、モチーフを目立たせるための色としてではなく、空間を感じさせるような黒の使い方をされているため、より奥行きを感じ、重厚感を加えた見応えのある作品に仕上がっているのでしょう。

どんな画材でも、例えば意図してベタ塗りを使用する時以外は、さまざまな色が混在していた方が空間を表現することができます。それは普段、何もない空間(例えそれが白い壁だとしても)を見ている時でも反射する光であったり、空気の層などを、無意識に感じとっているからです。絵として画面に起こした時に、色の変化を探し密度を高めることで、それらしい空間表現につながります。

朱に佇む

松下 岩絵具/和紙・パネル

ナツメです。本日は日曜大人クラスの松下さんの日本画をご紹介します!

パッと目に飛び込んでくる朱色が印象的なこの作品。画面の中心には一羽の鶏が描かれ、その上には葉が広がっています。胸を張りながら佇む姿には落ち着きがあり、見ていると心が静まり、ゆったりとした時間の流れを感じるようです。

鶏の羽毛の表現には細やかな観察と筆づかいの工夫が随所に見られます。胸や腹部は柔らかな線を重ねることでふんわりとした質感が生み出され、光の当たる部分には白に淡い色を加えることで透き通るような奥行きが与えられています。対照的に、背から伸びる藍色の尾羽は鋭い筆致で描かれ硬質な質感や張りのある力強さが際立ち、鶏冠は背景の朱色に負けないよう、さらに深い赤で画面中央に重みを出しました。

背景には橙や赤、黄色といった暖色が幾重にも重ねられ、葉の形が軽やかなタッチで散りばめられています。葉の輪郭に金まで入れた鮮烈な色使いでありながらも調和が保たれているのは、同系色を多用しつつ濃淡を巧みに変化させているためです。鳥の明快な色づかいと背景の暖色のなだらかな色の変化の対比によって中央の白が際立ち、画面に明暗の確かな軸が生まれています。

全体を通して見ると、鶏の姿を写実的に描きながらも、筆の運びや色の選択に松下さんの感覚的な工夫が込められていることが伝わってきます。力強さをもつ部分と柔らかさを意識した部分が織り交ぜられることで、静かな風情をたたえた日本画らしい魅力を感じます。

波間に荒い粒子の岩絵具

加藤 岩絵具/和紙・パネル

昨日から藝祭で大忙しのサトルです。藝祭は明日の日曜までですので、ぜひ多くの方に足を運んで頂ければ幸いです。詳細はこちらをご覧ください。
今回ご紹介するのは見ていると水辺に行きたくなるような加藤さんの日本画です。

南国の海を感じる浜辺に集まるのは、可愛らしい海亀の一家でしょうか?甲羅の表面の鱗板(りんばん)はさることながら、小さな鱗一つ一つまで正確に描写してあって、本当に日本画なのかと疑うほどのリアリティが出ています!

生き物を表現する際、鱗や毛並みなど表面に出ている質感を精巧に描きすぎると動物の持っている肉体の柔らかさや厚みが失われます。加藤さんは持ち前の観察眼で鱗や顔を細かく描き込みましたが、単調にならない様に茶系の絵の具などで必要な部分以外をぼかしたり、上からキラキラした粒子の荒い岩絵具で一部だけ目立たせるなど、抑揚を出すため様々な工夫をしました。そのおかげで生き生きとしたハリのある質感を生み出せていますね!

水面の反射にも同じように様々な技巧が見て取れます。エメラルドグリーンの明るいベースが鮮やか過ぎて少々単調でしたが、それを抑えるために何日もかけて荒い粒の絵の具を少しずつ塗り重ねました。海亀には更に沢山の岩絵具を使っていますね。岩絵具の中でも荒い粒の絵の具は下の色が隠れづらく、ムラにもなりやすいので扱いが難しいのですが、果敢に挑戦し見事な仕上がりに。まじまじと水面を見ていると本当に波が動いているのでは無いかと目を凝らしてしまいます。

加藤さん普段は水彩画を制作していらっしゃいますが、日本画と同じく絶妙な色の違いを見逃さずに、細かな仕事を重ねて深い表現をされています。が、もっともっと観察眼を鍛えたいと現在は石膏デッサンを描かれています。既に凄まじい描写力がありながらも更に高みを目指すその姿勢は1人の作家として尊敬の念を抱きます。絵画を描く上で最も基本になるのはやはりデッサンでしょう。デッサンを疎かにすると色の表現も広がっていかないものですから、僕も加藤さんを見習って今一度基本に立ち帰り、藝祭が終わったらデッサンを描いてみようと思います。

画材の可能性は果てしなく

秦野 岩絵具/和紙・パネル

こんにちは、マユカです!今回は秦野さんの作品をご紹介して行きたいと思います。

画材が書いていなければ、おおよそ日本画には見えないこちらの2枚。ミオスに通われて20年、版画・アクリル・油彩・デッサンと、たくさんの画材で制作されてきた秦野さんだからこその、遊び心ある画風がとても面白く、豊かな発想力が盛り込まれた作品だと感じます。

まずは左側の作品から。目が覚めるようなビビッドな赤が印象的で、黄色とともに全体がまとめられています。差し込まれた青い影と黒い主線が画面をギュッと引き締めているため、間延びせずスタイリッシュに纏まっています。一部以外はビビッドカラーで統一されているものの、少ない色数と色を使う場所がしっかりと考えられた配色によりごちゃついて見えず、デザイン的で、ポスターのような雰囲気がとてもおしゃれです。岩絵具といえば、水彩絵具のような繊細なイメージが強いですが、秦野さんのキャンバス上では全く違った魅力を発揮しています。岩絵具が持つ、元の石を感じさせるような色の強さを見せてくれていますね。

次に右の作品です。突き抜けるような青空と、夏を感じさせる大きな雲が爽やかな雰囲気を感じる一枚です。角度によって厚みのある白に見えたり、空が透けて見えたりと表情を変え、まるで本当に空を見ているような気分になりました。こちらは岩絵具らしい滲みや、絵の具溜まりを見ることができるため、左の作品に比べれば日本画らしいのですが、それでもやはり、色使いや塗りにたくさんの「面白い」が詰まっています。また、影の中にさまざまな色が入っているため少し幻想的な雰囲気も相まって懐かしい気分すら覚えますね。これは見る人によって感想が色々と変わるのではないでしょうか。是非とも皆さんが感じた印象についてお聞きしたいです。

適していないと思われる画材でも、描こうと思えばどんな物でも描くことができると思える作品達。普段はアクリルや油絵の具で描かれるようなビビッドな配色の作品が、岩絵具で描かれることにより特有のざらざらとしたテクスチャと、キラキラした視覚効果が「面白い」に繋がり、目を惹く仕上がりになっているのかもしれません。

春の月夜に

佐原 岩絵具/和紙・パネル


ナツメです。本日は月曜大人クラスの佐原さんの日本画をご紹介します。
朧月を背に、桜の枝にとまるメジロが描かれました。月夜に何を思っているのでしょうか、つぶらな瞳がなんとも愛らしいですね。暗く彩度を抑えた背景に対して、手前のメジロや花は明るく鮮やかで色数も豊富に用いられており、画面の中でいっそう引き立っています。

主役であるメジロは細い筆で羽毛を丁寧に描き込み、柔らかな質感や体のふくらみが巧みに表現されています。また、くちばしや瞳には羽毛とは異なる硬さや光沢があり、素材ごとの質感の描きわけが見事です。
一方で桜は、細部を描き込みすぎず、白を基調としたシルエットで表されています。花びらを一枚ずつ細かく描くのではなく全体をまとめることで、抑えた描写だからこそメジロの緻密さが際立ち、視線が自然に中心へ導かれます。情報量の差をつけることで画面全体にリズムが生まれ、構図としても洗練された印象を与えています。

さらに、背景の夜空は単なる平面ではありません。深い藍色にあえて大きな色幅をつけず、同系色で葉のような描き込みを加えることで、落ち着きの中に上品な華やかさが生まれています。絵具を何度も塗り重ねることで生じる微妙な濃淡は、夜の静けさを漂わせ、風が通り抜ける気配や遠くで虫の声が聞こえるような情景まで想像させてくれます。

朧月、桜、そしてメジロという春のモチーフが寄り添うことで、季節のひとときがしっとりと優美に切り取られた作品となりました。

夏の記憶をとどめる

山本 岩絵具/和紙・パネル

大竹です。今回ご紹介するのは、山本さんによる日本画の作品です。

ひまわりといえば、太陽に向かって真っ直ぐ咲く姿が象徴的ですが、本作では盛りを過ぎているのか、うなだれながらもなお鮮やかな黄色を放つ姿が表現されています。花びらの一枚一枚に残る夏の香りは、過ぎ去ろうとする季節を惜しむかのようで、観る者にやがて地に落ちていく未来の時間までも想像させます。少ししおれたひまわりを選び取った眼差しに、作者の感性の豊かさが表れていますね。花の美しさは、決して瑞々しい瞬間だけに宿るものではなく、弱さや衰えの中にも情緒や美が存在することを伝えてくれるかのようです。夏の終わりに漂うもの哀しさは、どこか懐かしい気持ちを呼び起こし、心を静かに震わせます。私はこちらの作品を拝見した時、井上陽水の少年時代が頭の中を流れていきました。少し切ない気持ちになってくるのは、まだひまわりたちが眩しいほどの黄色を有しているからなのでしょうか。

背景の青も印象的で、夏の強い日差しの熱感というより、湿度を帯びた空気を思わせるような柔らかい青で描かれており、岩絵の具の持つ質感が巧みに活かされています。この青があることで、ひまわりの黄色がいっそう鮮やかに浮かび上がり、画面全体に静かな深みを添えています。日本画ならではの重なりと透明感が、季節の移ろいを鮮やかに浮かび上がらせ、鑑賞者の心に余韻を残す味わい深い作品です。

暑さも落ち着く早朝

林 岩絵具/和紙・パネル

こんにちは、マユカです!今回は林さんの日本画をご紹介していきたいと思います。

青の冴えわたる早朝に美しく鮮やかなピンクを見せる朝顔を描きました。明るい青ではなく、海のように深い青を使用しているため、ピンク色がより際立ち画面の中で一層映えています。少し眠たい朝に朝顔の咲いているところを見た時の、少し目の覚めるような感覚がこの作品からも感じられますね。画面下の朝顔はその花の形をしっかりと感じさせる立体感と花びらの厚みさえ感じるような陰影がついており、瑞々しさのある質感がしっかりと描写されています。

よく見てみれば一際大きな朝顔の隣には、膨らみ開花を待つ蕾が。左の支柱に絡まる蔦に透ける赤や、支柱の留め具などの観察眼あふれる細かな描写が林さんの作品を魅力的なものにしており、情景にリアリティを付加し、説得力が生まれています。また、全体的に暗い背景が夜をイメージさせるのですが、朝に咲く花がメインにあしらわれているというアンバランスさに見る人を惹きつけてくれるような魅力があり、配色の美しさだけではなくそこから得られるイメージを利用した画面の調整がとても上手いと感じました。夏の茹だるような暑さの中でも、涼しさを感じられる素敵な作品ですね。

あんなにも暑くてビタミンカラーの似合った今年の夏も終わりに近づき、最近は少しずつ朝と夜に秋の風を感じるようになりました。季節の変わり目は体調を崩される方も多いので、皆様もご自愛くださいませ。

夏の彩り

釘宮 岩絵具/和紙・パネル

北海道旅行から帰ってきてこちらの蒸し暑さに悲鳴をあげています、ナツメです。本日は日曜大人クラスより釘宮さんの作品をご紹介します!
タチアオイをモチーフに日本画を描かれました。この地域でも道端や庭先で見かけることができる身近な花です。

画面いっぱいに広がるタチアオイは、下から上へと連なる花々のリズムがとても印象的です。茎の縦のラインがすっきりと構図を支え、その上に連なる花がまるで空に向かって舞い上がっていくかのよう。背景には淡い水色から緑がかった色へのグラデーションが用いられており、花々の鮮やかなピンクを一層際立たせています。空の透明感と花の柔らかな質感が調和し、画面全体に爽やかさと清々しさが広がっています。また、ピンクの花の中に白い花を混ぜ込むことで、画面に軽やかな変化が生まれています。単色で埋め尽くすのではなく、あえて濃淡をつけ、ところどころに明るい部分を加えることで、一つひとつの花が際立って見えるよう工夫されています。

制作の過程では、まず胡粉で花や葉の部分を下塗りし、その上から色を重ねて仕上げることで、発色の明るさや絵具の重なりに奥行きが生まれ、花の軽やかさや光のあたり具合まで感じさせる仕上がりになっています。日本画の技法は一見シンプルに見えても、ごまかしがききにくく、ひとつひとつの花びらや葉を丁寧に描き込まなければ成立しません。そのため、根気強い作業の積み重ねが必要になります。とくにタチアオイのように花が無数に連なる植物を題材とする場合、同じ形を繰り返すだけでは単調になってしまうため、それぞれの花に微妙な違いをつけながら描き分けていくことが大切です。非常に根気のいる作業だったと思いますが、その丁寧な仕事ぶりが作品全体に生き生きとした表情を与えています。

堂々と咲き誇る姿でありながら、気品を感じさせる佇まいが魅力的です。花言葉の「大望」にふさわしく、凛とした存在感と上品な美しさを兼ね備えた一枚となりました。

ひそやかな輝き

木佐貫 岩絵具/和紙・パネル

大竹です。今回ご紹介させていただくのは、木佐貫さんによる日本画作品「睡蓮」です。

睡蓮という名は、「夜になると花を閉じ、まるで眠っているように見える」ことから由来しているといいます。夏に咲く花でありながら、静けさや神秘性をたたえ、日本画の題材として数多く描かれてきたポピュラーな存在です。

こちらの作品では、幾重にも塗り重ねられた青が、まるで水の奥深さを映し出すかのようにグラデーションを描き、観る者を引き込んでいきます。その深い水の世界から、まるで白い睡蓮が光をまとって浮かび上がってくる様にも見えてきますね。その花びらには、薄く透き通るような柔らかさと、光を受けて宝石のように輝く部分とが共存しており、神々しくも美しい姿を描き出しています。
大きな葉の落ち着いた緑と、花の清らかな白、そして淡い桃色との対比は華やかで、まるで水面に咲く舞台の主役を見ているかのようです。岩絵具の質感により、その美しさは一層際立ち、画面全体に上品でやわらかな印象を与えています。

水面の深みを出すために幾度も色を重ね、花びら一枚一枚の表情を探りながら描き出したことが伝わってきます。決して派手さに頼らず、ひと筆ひと筆を誠実に積み上げてきたからこそ、この一輪の睡蓮は凛とした存在感を放っているのでしょう。