ひと枝の上の存在感

坂本 岩絵具/和紙・パネル

待ちに待った秋の到来に大喜びしています、ナツメです。今日は月曜大人クラスより坂本さんの日本画をご紹介します!
枝にちょこんと乗っている姿がなんとも可愛い、こちらはエナガという小鳥で、近年人気を集めているシマエナガの原種にあたるそうです。真っ白な羽毛のシマエナガと比べると目の上に眉毛のような黒い線があり、どこかきりっとした凛々しさが愛らしいですね!空に浮かぶように静かに佇む姿が画面にやさしい雰囲気を広げています。

体の部分は白を基調に淡い茶色を重ね、やわらかな線で表されているため、ふんわりと膨らんだ毛並みが伝わってきます。一方で、翼やくちばしには黒をしっかりと効かせており、羽ばたきに耐える硬さや張りが感じられます。部位ごとに異なる質感を描き分けることで、まるい体のフォルムと相まって生命感がぐっと増しています。

背景には紫や青、緑が幾重にも重なり合い、深みのある色合いをつくっています。様々な色を乗せていますが、全体的に似た暗さの色同士を選んでいます。一方で、枝には背景よりも鮮やかな茶色が使われ、暗さの度合いは揃えつつも色相の差で自然に際立つよう工夫されています。
小鳥にしっかりとピントを合わせて、背景をぼかした写真を思わせる描写は、一羽をどう魅力的に見せるかを考え抜いた結果だといえるでしょう。

白銀の龍、黄金の月

阿出川 岩絵具/和紙・パネル

大竹です。今回ご紹介させて頂くのは、阿出川さんの日本画作品です。
夜空に浮かぶ黄金の月へと昇りゆく、白銀の龍の姿が描かれています。龍は古来より、人々の祈りや願いを託されてきた存在であり、また「登竜門」の故事が示すように、困難を乗り越えて大成する象徴として尊ばれてきました。画面に現れたこの龍もまた、ただ天空に舞い上がるだけでなく、試練を超え、なお高みへ挑もうとする気迫を宿しています。その姿は、観る者に勇気や力を与えてくれるようです。

白銀に輝く龍の鱗は、一枚一枚が丁寧に描き込まれ、強靭さと気高さを表しています。それに対して、天空に輝く黄金の月は満ちゆく力と安らぎを兼ね備え、画面全体の象徴的な存在となっています。この「白銀」と「黄金」の対比が、作品にいっそう神秘性と格調高さをもたらし、龍と月が互いを引き立て合いながら一幅の物語を紡いでいるのです。

さらに注目して頂きたいのは、背景に漂う深い緑の絵の具の表現です。日本画ならではの、岩絵具の重なりによって生まれる独特の質感が魅力的ですね。煙のように揺らめくその色彩は、夜の闇の中で形を持たない気配を掴み取ったかのようで、龍の存在を際立たせながら、観る者を幻想的な世界へと引き込みます。

月に挑むかのように天を仰ぐ龍の姿は、ただ題材としての「昇り竜」を超えて、阿出川さんご自身の制作姿勢を語っているように思われます。常に妥協せず、真摯に表現へと挑む姿勢が、そのまま龍の雄々しさに投影されているのでしょう。作者の意志が込められた一枚として強い迫力を放ち、観る者に希望や奮起の思いを呼び起こす、まさに「縁起の良い」作品と言えるでしょう。

日向の二匹

成松 岩絵具/和紙・パネル

こんにちは、マユカです!今回は成松さんの作品をご紹介します。
野原で寄り添う小狐が二匹。穏やかな自然の風を感じるような暖かい日本画です。

一面の緑が美しい画面に、丁寧に描かれた狐の毛並みがコントラストを作り、色の調和が取れています。黄色の影をつける時にただ茶色を何も考えずに乗せてしまうと濁って見えてしまうことが多いのですが、成松さんはオレンジ寄りの明るい茶色を使っているため、自然な陰影と鮮やかさを画面にプラスし、メインカラーとして黄色を目立たせることに成功していますね。岩絵具の持つ、自然的でありながら強さを持った発色を存分に発揮されています。
また、ふかふかとした柔らかな感触を思わせる草原には、水色が奥の方に使われているため、空気遠近法(遠くのものをより薄く描く)により平坦な面に奥行きが生まれ、画面の外にも草原が続いているような雰囲気を生むことができています。立った草や狐の座っているとことの影にかなり暗い緑を使っているところや、小花からも、画面の多くを占める緑を単調に見せない細やかな気遣いと工夫が感じられて、丁寧な印象を与えてくれます。

絵本や、童話の挿絵のように優しく可愛らしい一枚でしたね。余談ですが、小原先生に「成松さんは小学生と中学生の息子さん達のお母さんでいらっしゃる」と伺ったのですが、もしかしたら穏やかに寄り添うこの絵の子狐達はお子様達を投影されているのかもしれませんね。

記憶の水辺

佐々木 岩絵具/和紙・パネル

涼しくなる日を今か今かと待ち望んでいます、ナツメです。本日は日曜大人クラスの佐々木さんの日本画をご紹介します!

大きく川が広がり、その奥に街並みや橋が描かれています。静かで落ち着いた雰囲気をたたえ、まるで物語の挿絵のように空気感を伝える描写力があります。現実から少し離れ、過去の記憶や夢の中の景色に迷い込んだような気持ちになり、不思議な時間の流れを感じさせます。実際の光景をそのまま写し取ったというより、むしろ心に残る記憶を風景として描き出しているように思えます。

画面の半分以上を占める水面は大きな見どころのひとつ。水の反射や段々と深くなっていく水の色がとても綺麗。普段は透明水彩を扱っている方なので、色を重ねて深みを生み出す経験が日本画にも生かされているのが伝わってきます。

川沿いの街並みは細やかに描き込みながらも、全体では似た明度の色を多く用いた滲むようなグラデーションが作られています。水面に写った鏡面反射の黄土色や、手前の川の深い部分に紫も入れて、水まで暖色に感じます。

実際の作品は岩絵具の粒子によってザラザラとした質感があるため、その特性が風景の空気感をいっそう引き立てています。風景を描いた一枚でありながら、その場の空気や時間までも閉じ込めたかのような表現がなされており、記憶や心を静かに揺り動かす作品です。

「重さと軽さ」「静と動」のハーモニー

黒永 岩絵具/和紙・パネル

大志です!今回は月曜大人クラスより、黒永さんの岩絵具作品をご紹介します!

まず心を奪われるのは、水中を思わせる青緑の色合いです。濃淡が幾重にも重なり、和紙の質感と相まって、水の揺らぎや深みを感じさせますね!ただの青ではなく、まるで底知れぬ湖に差し込む光が層をなしているようで、静けさの中に神秘的な奥行きが広がっています。

その中をゆったりと漂う、堂々としたワニ。大地を思わせる重厚さを持ちながら、銀白色に輝く背は水面に反射する光を帯びています!重さと同時に透明感や柔らかさも感じられるのが不思議ですね。これは岩絵具を何層にも重ねることで生まれる独特の存在感だと思います。

最後に、アクセントになっている周囲に描かれた「泡」。水面に浮かぶ泡は軽やかに広がり、重厚なワニとの対比で画面に心地よいリズムを与えていますね。この存在により、静と動、重と軽の調和がとても美しくなり、全体を生き生きと輝かせています。
水中で相反するものが響き合う瞬間を捉えたこの作品、眺めていると自分も水の中に溶け込み、ワニと一緒に漂っているような、不思議な感覚に包まれました。

色の密度

木村 岩絵具/和紙・パネル

マユカです!昨日の松下さんのニワトリに続き、本日は木村さんの鶏をご紹介します。

伊藤若冲を思わせるような華やかで繊細な鶏の日本画です。尾長鶏の高貴な雰囲気が、深みのある岩絵具の色味とよく合っていますね。羽のグラデーションはもちろん、特有の少し艶々とした質感まで感じさせる描き込みが素晴らしいです。
パッと見るだけでも華美だな、リアルだなと感じる木村さんの作品ですが、その豪華さの所以は、黒の幅の広さだと思います。画面上部から下部に向かって、緑→赤と混ざる色が変わり、鶏の周囲は黄味がかっており、黒がただ空間を埋めるためや、モチーフを目立たせるための色としてではなく、空間を感じさせるような黒の使い方をされているため、より奥行きを感じ、重厚感を加えた見応えのある作品に仕上がっているのでしょう。

どんな画材でも、例えば意図してベタ塗りを使用する時以外は、さまざまな色が混在していた方が空間を表現することができます。それは普段、何もない空間(例えそれが白い壁だとしても)を見ている時でも反射する光であったり、空気の層などを、無意識に感じとっているからです。絵として画面に起こした時に、色の変化を探し密度を高めることで、それらしい空間表現につながります。

朱に佇む

松下 岩絵具/和紙・パネル

ナツメです。本日は日曜大人クラスの松下さんの日本画をご紹介します!

パッと目に飛び込んでくる朱色が印象的なこの作品。画面の中心には一羽の鶏が描かれ、その上には葉が広がっています。胸を張りながら佇む姿には落ち着きがあり、見ていると心が静まり、ゆったりとした時間の流れを感じるようです。

鶏の羽毛の表現には細やかな観察と筆づかいの工夫が随所に見られます。胸や腹部は柔らかな線を重ねることでふんわりとした質感が生み出され、光の当たる部分には白に淡い色を加えることで透き通るような奥行きが与えられています。対照的に、背から伸びる藍色の尾羽は鋭い筆致で描かれ硬質な質感や張りのある力強さが際立ち、鶏冠は背景の朱色に負けないよう、さらに深い赤で画面中央に重みを出しました。

背景には橙や赤、黄色といった暖色が幾重にも重ねられ、葉の形が軽やかなタッチで散りばめられています。葉の輪郭に金まで入れた鮮烈な色使いでありながらも調和が保たれているのは、同系色を多用しつつ濃淡を巧みに変化させているためです。鳥の明快な色づかいと背景の暖色のなだらかな色の変化の対比によって中央の白が際立ち、画面に明暗の確かな軸が生まれています。

全体を通して見ると、鶏の姿を写実的に描きながらも、筆の運びや色の選択に松下さんの感覚的な工夫が込められていることが伝わってきます。力強さをもつ部分と柔らかさを意識した部分が織り交ぜられることで、静かな風情をたたえた日本画らしい魅力を感じます。

波間に荒い粒子の岩絵具

加藤 岩絵具/和紙・パネル

昨日から藝祭で大忙しのサトルです。藝祭は明日の日曜までですので、ぜひ多くの方に足を運んで頂ければ幸いです。詳細はこちらをご覧ください。
今回ご紹介するのは見ていると水辺に行きたくなるような加藤さんの日本画です。

南国の海を感じる浜辺に集まるのは、可愛らしい海亀の一家でしょうか?甲羅の表面の鱗板(りんばん)はさることながら、小さな鱗一つ一つまで正確に描写してあって、本当に日本画なのかと疑うほどのリアリティが出ています!

生き物を表現する際、鱗や毛並みなど表面に出ている質感を精巧に描きすぎると動物の持っている肉体の柔らかさや厚みが失われます。加藤さんは持ち前の観察眼で鱗や顔を細かく描き込みましたが、単調にならない様に茶系の絵の具などで必要な部分以外をぼかしたり、上からキラキラした粒子の荒い岩絵具で一部だけ目立たせるなど、抑揚を出すため様々な工夫をしました。そのおかげで生き生きとしたハリのある質感を生み出せていますね!

水面の反射にも同じように様々な技巧が見て取れます。エメラルドグリーンの明るいベースが鮮やか過ぎて少々単調でしたが、それを抑えるために何日もかけて荒い粒の絵の具を少しずつ塗り重ねました。海亀には更に沢山の岩絵具を使っていますね。岩絵具の中でも荒い粒の絵の具は下の色が隠れづらく、ムラにもなりやすいので扱いが難しいのですが、果敢に挑戦し見事な仕上がりに。まじまじと水面を見ていると本当に波が動いているのでは無いかと目を凝らしてしまいます。

加藤さん普段は水彩画を制作していらっしゃいますが、日本画と同じく絶妙な色の違いを見逃さずに、細かな仕事を重ねて深い表現をされています。が、もっともっと観察眼を鍛えたいと現在は石膏デッサンを描かれています。既に凄まじい描写力がありながらも更に高みを目指すその姿勢は1人の作家として尊敬の念を抱きます。絵画を描く上で最も基本になるのはやはりデッサンでしょう。デッサンを疎かにすると色の表現も広がっていかないものですから、僕も加藤さんを見習って今一度基本に立ち帰り、藝祭が終わったらデッサンを描いてみようと思います。

画材の可能性は果てしなく

秦野 岩絵具/和紙・パネル

こんにちは、マユカです!今回は秦野さんの作品をご紹介して行きたいと思います。

画材が書いていなければ、おおよそ日本画には見えないこちらの2枚。ミオスに通われて20年、版画・アクリル・油彩・デッサンと、たくさんの画材で制作されてきた秦野さんだからこその、遊び心ある画風がとても面白く、豊かな発想力が盛り込まれた作品だと感じます。

まずは左側の作品から。目が覚めるようなビビッドな赤が印象的で、黄色とともに全体がまとめられています。差し込まれた青い影と黒い主線が画面をギュッと引き締めているため、間延びせずスタイリッシュに纏まっています。一部以外はビビッドカラーで統一されているものの、少ない色数と色を使う場所がしっかりと考えられた配色によりごちゃついて見えず、デザイン的で、ポスターのような雰囲気がとてもおしゃれです。岩絵具といえば、水彩絵具のような繊細なイメージが強いですが、秦野さんのキャンバス上では全く違った魅力を発揮しています。岩絵具が持つ、元の石を感じさせるような色の強さを見せてくれていますね。

次に右の作品です。突き抜けるような青空と、夏を感じさせる大きな雲が爽やかな雰囲気を感じる一枚です。角度によって厚みのある白に見えたり、空が透けて見えたりと表情を変え、まるで本当に空を見ているような気分になりました。こちらは岩絵具らしい滲みや、絵の具溜まりを見ることができるため、左の作品に比べれば日本画らしいのですが、それでもやはり、色使いや塗りにたくさんの「面白い」が詰まっています。また、影の中にさまざまな色が入っているため少し幻想的な雰囲気も相まって懐かしい気分すら覚えますね。これは見る人によって感想が色々と変わるのではないでしょうか。是非とも皆さんが感じた印象についてお聞きしたいです。

適していないと思われる画材でも、描こうと思えばどんな物でも描くことができると思える作品達。普段はアクリルや油絵の具で描かれるようなビビッドな配色の作品が、岩絵具で描かれることにより特有のざらざらとしたテクスチャと、キラキラした視覚効果が「面白い」に繋がり、目を惹く仕上がりになっているのかもしれません。

春の月夜に

佐原 岩絵具/和紙・パネル


ナツメです。本日は月曜大人クラスの佐原さんの日本画をご紹介します。
朧月を背に、桜の枝にとまるメジロが描かれました。月夜に何を思っているのでしょうか、つぶらな瞳がなんとも愛らしいですね。暗く彩度を抑えた背景に対して、手前のメジロや花は明るく鮮やかで色数も豊富に用いられており、画面の中でいっそう引き立っています。

主役であるメジロは細い筆で羽毛を丁寧に描き込み、柔らかな質感や体のふくらみが巧みに表現されています。また、くちばしや瞳には羽毛とは異なる硬さや光沢があり、素材ごとの質感の描きわけが見事です。
一方で桜は、細部を描き込みすぎず、白を基調としたシルエットで表されています。花びらを一枚ずつ細かく描くのではなく全体をまとめることで、抑えた描写だからこそメジロの緻密さが際立ち、視線が自然に中心へ導かれます。情報量の差をつけることで画面全体にリズムが生まれ、構図としても洗練された印象を与えています。

さらに、背景の夜空は単なる平面ではありません。深い藍色にあえて大きな色幅をつけず、同系色で葉のような描き込みを加えることで、落ち着きの中に上品な華やかさが生まれています。絵具を何度も塗り重ねることで生じる微妙な濃淡は、夜の静けさを漂わせ、風が通り抜ける気配や遠くで虫の声が聞こえるような情景まで想像させてくれます。

朧月、桜、そしてメジロという春のモチーフが寄り添うことで、季節のひとときがしっとりと優美に切り取られた作品となりました。