頭の中のイメージそのままを


近藤 色鉛筆

岩田です。今回は、近藤さんの作品をご紹介します。

色鉛筆で描くことに特化し、今までも様々なモチーフを描いてきた近藤さん。こちらの絵は、色鉛筆画にしては比較的大きい四切画用紙(38㎝×54㎝)サイズで描かれました。

筆で描くことは、どちらかというと苦手と言う作者。
滲んだり、ボケたりせず、狙ったところに芯の先を合わせ、カリカリと描き込んでいく方が得意だとはいえ、これだけの大きさの紙を色鉛筆のみで描き切るというのは、本当に凄いことです。
アップした画像からも伝わってくると思いますが、実際の作品を見ていると、あまりに緻密すぎて、どんどんと引き込まれて行きます。

色鉛筆ということもあってか、全体を捉え大きい関係性から徐々に細かいところへアプローチしていくというより、ポカンと塗っていない余白に近いようなところもあれば、葉っぱなどは始めから結構密度を上げて描いていく手法。
途中経過としては、そんな感じで、描いているところといないところがまだら模様のように存在しているのですが、途中から、それらがネットワークのように繋がってくる様をとても面白く拝見していました。

そうした描き方も、小さい画面では比較的辻褄を合わせやすいと思いますが、これだけの画面を制すとなるとかなり苦労したことは想像に難くありません。
とはいえ、そうした第三者が見て、大変だなぁと思うことでも、ひたすらにコツコツと積み上げていくことに楽しみを見出すことができる作者ならではの気質がなせる技でしょう。

深い森の中で、朽ち果て地中に埋まったスコープドッグ(TVアニメ、装甲騎兵ボトムズに出てくるロボ)。木漏れ日差す一本道をこちら側に歩いてくる男女。様々なストーリーを起草させてくれます。

近藤さんの頭の中のイメージそのままをそっくり再現できたのではないでしょうか。

白と黒で描く世界


増井 パステル・チャコール鉛筆・コンテ/グレーのイラストボード

ナツメです。本日は月曜大人クラスの増井さんの作品をご紹介します!グレーのイラストボードに、チャコール鉛筆・パステル・コンテを用いて描かれました。雲間から降り注ぐ光のなかを馬の群れが駆け抜けるという構図で、大自然のスケール感や馬の迫力が伝わってきます!

いわゆる「グレーデッサン」のような描き方で、よく見るデッサンのように白い紙に鉛筆や木炭で描くのとは異なり、中間の明度(グレー)を持ったボードに白と黒を加えて描いていきました。明るくしたいところには白を、暗くしたいところには黒を置き、中間の明度はあえて塗らずに残すという判断が常に求められる、実はとても考えることが多い描き方です。今回は白と黒の他に、茶色のコンテやパステルも使用しました。

中でも難しいのは「何をどこまで描くか」「白と黒のバランスをどう取るか」という点です。黒で描きすぎると画面が重たく沈んでしまい、白を多用しすぎるとハレーションのようにぼやけてしまいます。そのため、光を感じさせながら奥行きを保つバランス感覚が必要とされます。

まずチャコール鉛筆で馬たちの動きを大きく捉え、その後コンテやパステルで明暗を加えながら密度を調整していきました。個々の馬の動きや立ち位置をきちんと観察しながらも、群れとしてのまとまりを崩さないよう描きこみすぎないことを意識されました。また、手前や中央の馬ほどコントラストを上げ、細かく描くことで群の中での奥行きを表現しています。

雲の隙間から差す光がとても印象的ですが、その白の力強さはグレーのボードを使ったからこそ際立っています。地の色を雲にそのまま活かすことで、白との対比がいっそう引き立ち、眩しさを感じさせる表現へとつながっています。馬の足元も影を丁寧に追うことで遠くへ抜けるような草原を巧みに描写されました。

初めての技法ながら、光の方向、馬の密度、地面の広がりなど、空間を構成する要素がしっかり整理されており、画面全体の秩序を感じます。遠くから見ても群れの迫力が伝わってくる一方、近づくと馬一頭一頭の個性や動きに気づく、見ごたえのある作品となりました。

灰色のキャンバスに白と黒、そして茶色だけで挑むという制限のなかでどれだけ豊かな表現ができるかに挑戦しながら、粘り強く取り組まれた一枚です。

2つの角度、2倍の楽しみ


小山 色鉛筆

サヤカです。突然の暑さに体が追いつきませんね。みなさん体調には十分お気をつけください。今回は大人クラスの小山さんの作品をご紹介します。

前回同様、娘さんを色鉛筆で描かれていらっしゃいます。しかし、1枚目から見ると娘さんがどんどん大きくなっているのが分かり、成長の速さに驚いてしまいますね。今回は箒と塵取りを両手に持ち、明らかに掃除はしていませんがとっても楽しそう!大変難しいトリミングをしていますが、小山さんはデッサン力が高いので、腰を落として構えている(踊っている?)ポーズがちゃんと伝わるのです。

ひまわり柄の甚平は、派手な柄ですが主張しすぎない絶妙な塗り加減です。夏の花であるひまわり柄と娘さんの弾ける笑顔の相性がバッチリで印象的です。

ちなみに小山さんはお父さんです。ミオスでは、子どもの絵を描くのはほとんどお父さんだそうです。子どもと一緒に日々密接に過ごす時間はお母さんの方が多いご家庭がほとんどだと思います。小原先生の読みは、教育の責任を負うお母さんは、ただ「うちの子かわいい!」と絵にできないのではないか?というものです。私も同様の考えで、お母さんは子供と自分を同一化しやすく、子供を描くということは自分の一部を描くということに近いのではないでしょうか。一年近く自分の体内にいた存在だから必然なのかもしれません。一方でお父さんは、子供と関わることで父親としての実感や家族というチームへの実感を得ていきます。同じお子さんの姿でも、お父さんとお母さんでは見ている角度が違うのかもしれませんね。子育ての楽しみが2倍あるようで、とても素敵なことだなと思います。

小山さんの作品からは、お子さんの楽しげな声まで聞こえてくるようでこちらまで成長を見守らせていただいている気分です。これからも小山さんの作品を楽しみにしています!

今までの経験を活かして


大崎 パステル

岩田です。今回は、大崎さんの作品をご紹介します。

こちらは、持参された写真を元に描いたパステル画です。飾りカボチャやカーネーションといった植物をアレンジしたモチーフ。透明水彩で作った寒色の背景をベースに鮮やかな暖色系の色彩で描き上げました。

今までにも色鉛筆、油彩、透明水彩など、どの描画材が自分に合っているのかを試してきた作者ですが、パステルが持つ、サッと色が付いて、消すことも容易であるという特徴が気に入ったとのこと。発色が良いのも相まって、今回のモチーフを描く上では、確かにぴったりな画材だったかもしれません。

色数が多い(アトリエには200色のハードパステル・ソフトパステルを用意してあります)ので、短時間でザっと色を乗せるのには適した画材『パステル』。しかし逆に細部の描写へは中々攻めずらく、作者も悪戦苦闘しながら、かぼちゃの艶やカーネーションのワサっとした質感を頑張って描き分けていました。様々な素材を扱ってきた経験が初めての描画材を扱う上でも活きているのだと感じました。

自室に今まで描いた作品を飾るのが楽しみという大崎さん。次はどんな画材を用いた絵を描いて部屋を彩りましょうか。

何をどこまで表現できるか


野上 ペン

岩田です。昨日のタコのペン画に続き、今回は、野上さんのペン画の作品をご紹介します。
こちらは、ピクミンというゲームのキャラクターを描いたものですが、かなり時間をかけて隅々まで手を入れ緻密に描いています。
前回ご紹介した野上さんのペン画はこちらですが、日付を見ると去年の10月ですから、このペン画は、実に5ヶ月取り組んでいたことになります。

鉛筆である程度、下描きをした後に、主にピグマペンを使って描いています。因みにピグマは、水性ペンなのですが、顔料インクを使っているので耐水性です。野上さんは、ペンのみで描いていますが、描いた上から絵の具を塗っても滲むことがなく便利です。

前作のカチッと硬質なイメージとは打って変わって、今回は、ピクミンと共に背景に溶け込むように花がうっすらと見えている、濃淡の差があまりない淡い色調。まるでペンを使って、何をどこまで表現できるのかを試しているような、作者のチャレンジングな姿勢が垣間見えるところがとても面白い。そんな道なき道を進むかのようなワクワク感が、今回ような素敵な作品に仕上がった要因かもしれません。

わからないけれど、このままペン画をひたすら追求していくと、なんか凄いところまでいってしまうのではないかという期待を感じさせるような、背景の繊細で有機的な網掛けを多用した描き方。画像を通して客観的に見てみると、既にオリジナリティーみたいなものを感じさせる世界観を持っています。

さあこれからも、まだ見ぬ境地へと踏み込んでいきましょう。

賢者?悪魔?それとも…


佐藤M ペン画

大竹です。今回ご紹介させて頂くのは、佐藤さんのペン画作品です。前回のペン画(こちら)では、馬の軽やかな足取りを繊細なタッチで表現されていましたが、今回は軟体生物の柔らかな身体をペンで細やかに追っています。

触ると指の形に凹みそうな、蛸特有のぐにゃぐにゃとした質感は、線や点描で色の変化をしつこく描き込んだ事で伝わってくるのでしょう。不規則に形を変える脚は今にも動き出しそうな迫力があります。脚から視線を辿っていくと、やがて山羊にも似た横長の瞳孔を持つ瞳に自然と惹きつけられてしますね。蛸が持つ、唯一無二の造形の面白さを改めて感じさせてくれます。

腹の部分は思い切って描写を白く抜き、最低限の点描で膨らみを表現しています。描き込まない事で光を作ったり、形を浮き上がらせるテクニックですね。そうした描き込みの濃度のバランスや輪郭線の強弱のつけ方には、佐藤さんの中で実験的なものもあったのではないでしょうか。試行錯誤の形跡が伺えます。

何百何千と重ねられた線から浮かび上がる姿は、西洋では悪魔と恐れられた存在の凄みを感じさせつつ、一方では海の賢者とも呼ばれる程の高い知性による、品のような味わいも持っているように思います。白黒のペン画という、彩度が排除された画面により、見る人によって様々な表情を見せてくれるでしょう。皆さんはどのような印象を持たれましたか?(余談ですが海鮮好きの友人に観せたところ、脚がプリプリで美味しそう!炙って食べた〜い!…と、お腹に訴えるものがあったようです。笑)

 

 

 

立体への意識


出町 水粘土

暖かい日も増えてきましたね、ナツメです。本日は水曜大人クラスより、出町さんの立体作品、ご自身の手をモチーフにした水粘土の彫塑作品をご紹介します!

【粘土】というと紙粘土や油粘土を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、今回使用したのは【水粘土】。私も大学一年の頃に彫塑の授業で使ったことがありますが、一般的にはあまり馴染みがないかもしれません。その名の通り、水と土を混ぜて作られた粘土で、制作中にひび割れしにくく可塑性に優れくっつきが良いため、ひな型や試作品などの原型として扱われれ繰り返し使用できるのが特徴です。乾燥すると固まりますが割れてしまうので、そのまま作品として取っておけるものではありません。

まず針金と木材で芯を作り、その上に粘土を貼り付けながら肉付けします。写実彫塑の場合、形のイメージをしっかり持ちながら、少しずつ粘土を足して作り上げる必要があります。そのため、単に形を作るだけでなく、手の構造を意識しながら進めることが重要になります。
出町さんは非常に丁寧に観察しながら制作を進めていたため、手の厚みや肉感の表現がとても巧みで、指のわずかな動きやポーズにも繊細なこだわりを感じます。ただの肉の塊ではなく、「手首から指先へと骨が通っている」という意識があるからこそ、作品にリアリティが生まれているのでしょう。 

立体作品の難しさの一つは、360°どの角度から見ても自然な形にすること。一方向から見たときにはバランスよく見えても、別の角度から見ると歪んでいる…ということがよくあるのですが、何度も角度を変えて見比べながら作られたため、写真のように手の立体感が見事に表現されました。

私が授業で彫塑の制作をした時も、一度立体を作ることでものの構造への理解がぐっと深まりました。特に手のような複雑な形は、実際に作ることで「どの部分がどのように厚みを持ち、どこがへこんでいるのか」といった感覚が掴みやすくなります。出町さんも今回の制作を通して、手の立体的な構造について新たな発見があったのではないでしょうか。今後手を描く際にも、今回の経験が活かされていくことと思います。

最後にオマケですが、武蔵美の彫塑の授業風景の紹介はこちら

外と内、部分と全体


中山 左-色鉛筆 / 右-透明水彩

岩田です。今回は、中山さんの作品をご紹介します。
最初のデッサンを一通り終え、さて次から何をしましょうとなって、以前からやりたいと思っていた人物を描くことにチャレンジをし始めました。

初回は、左手の色鉛筆を使った作品。ファッションモデルをモチーフに、あっという間に描き上げました。
その前に描いていたデッサンを見ていても、躊躇なく手が進み、形の狂いなどもさほどなく、スイスイと描き進めるタイプの方と認識していましたが、色鉛筆になると、更に細部へのアプローチも見られ、鉛筆以外の描画材を柔軟に使いこなす器用さも持ち合わせていると感じます。
右手の透明水彩の作品に関しても同様、積極的に明度の低い色や鮮やかな色を置き、初めてながら実に楽しんで描いているのが見て取れます。

特にここ最近土曜日のクラスでは、人物を描けるようになりたいというニーズが多いような気がしています。確かに静物や風景と比べても、同じ人間として思い入れを感じやすく、描いていて面白いモチーフだと思いますが、それだけに、ちょっとした構造的なバランスの違いにすら、鑑賞者側に立つと気になってしまうものです。

人物や生き物に関してはもちろんのこと、モノを描く上では、目に見える外側だけでなく、目に見えない内部への意識、部分だけでなく、大きく全体を捉える意識といった、双方向への見方が大事になってきます。

中山さんも是非これから、構造、特に人物を作り上げる土台となっている「骨格」がどのようなものなのか、ということにアプローチしながら、更にリアリティのある人物画を描いていって欲しいです。

ペン画に拘る


野上 ペン

岩田です。今回は、野上さんのペン画をご紹介します。
こちらは、野上さんが持っている合体ロボットなのですが、調べたら多分「DXドンオニタイジン」というやつ。良く見ると、桃太郎にでてくる猿、キジ、犬、鬼たちがそれぞれ変形合体して、手足となって、一体のロボットを作り上げているという代物。

部分部分、細かいパーツで形成されていて、最初は、これをペンで描きたいっていうけど、どこまで描けるのだろうと思っていたのだけど、コツコツと緻密に描き続けて、ようやく完成に至ったという作品。

野上さんの使っているピグマのミリペンは、ペン先の太さが多様なのだけど、一番細いもので0.03ミリ。
しかし、この太さでもデティールの影などを塗っていくには、まだ太いかなぁと感じてしまうくらいで、しまいには、その一番細いペンを使い込んだ末、更に細くなったラインで描くという徹底っぷりを見せていました。

複雑な形状にも拘わらず、しっかり立体感も表現されており、長い時間をかけて、ここまで描ききったことに、ただただ感心してしまいます。

当初から、ペン画に拘り続けてきた作者ですが、このモチーフを描いたことで、相当な自信を得たはず。耐水性のペンなので、ここいらでペンの上から色を使って塗って欲しいなぁと感じつつ、黒ペンのみを使って、こんなものも描けるのか―という道も追求して欲しい。
とにかくこれからが楽しみな、野上さんの描きっぷりでした。

毎日が物語の一ページ


小山 色鉛筆

マユカです!今回は小山さんの作品をご紹介します。
色鉛筆で活き活きと描かれたこちらの2枚。娘さんの日常のさりげない仕草を描かれていらっしゃいます。今回でお嬢さんの絵も3枚目となりました。左の作品はその活き活きとした雰囲気が良く伝わってきます。色鉛筆の暖かなタッチが優しいイメージを与え、どこかほっこりとするような印象です。どちらもデッサンがしっかりととられているため人の顔を描いた際に生じるパーツのバランスに対する違和感が全くなく、小山さんの観察力、描写力の高さが伺えます。

娘さんのお顔ももちろんですが、着ている服の自然なたゆみやひろがりがその表情をさらに明るく魅せたり、性格を表す手助けになっていますね、楽しげな声が聞こえてきそうな雰囲気がとても伝わってきました。右の絵は泣きそうな顔にも見えますが、電気屋のテレビ画面にくぎ付けになっているショットだそうです。(内容は悲しいor怖い場面なのかもしれませんね。)子どもは集中している時に目を凝らすため、眉を顰めたりする表情筋の仕草が魅力です。そこを丁寧に描写されているため、パッと見たときにどんな表情なのか想像しやすく、絵に物語性が生まれます。物語性といっても、特別なストーリーが必要というわけではなく「走って楽しかった」「集中してテレビを見た」のように日常で起こる何でもないことだって「物語性」であると私は思います。
言葉のない状態で感情などの複雑な物を表現するためには表情が一番です。こういった何気ない表情は特に、いつかどこかで見たような懐かしさを感じるため、優しい気分にさせてくれるのでしょう。

特別な出来事がなくても、子供たちにとっては毎日が新しいことの連続で、大人にとってなんでもないことでも、子供たちが大きくなっても記憶に残ったり、その子の人生にとって大きなものになったりすることがあります。そんな何気ない一瞬を発見して画面に描写した小山さんの作品は、お父さんが娘さんに贈る人生の本の挿絵、その1ページのようにも見えました。