模写にも「らしさ」を乗せて


村田 油彩

サヤカです。春になると街に人が多くてびっくりします…。今日は、村田さんの油彩の作品をご紹介します。

左は油絵2枚目、ネイチャー雑誌からピックアップされたクジラの骨だそうです。クジラの骨という死骸にめいっぱいの光が注ぐ様子は、死と再生を感じさせ、幻想的な空模様も相まって、どこか神秘的な雰囲気が漂います。筆跡を残して波のように描き、朝を迎えて白んでいく様子を白色と黄色で表現しているところに、ゴッホの『星月夜』を連想しました。また、光の描き方が巧みで、画面外の太陽の存在が想像できます。画面に映らない部分の説得力があることで、見た人に作品のストーリーを考えさせる事ができるのです。

右はイラストレーターの作品の模写。油絵に向いている作品とは言えませんが、今までの写実から一線を画すために、全く違う方向性をまずは模写で練習しようと選ばれました。優しいタッチを再現し、温もりのある作品になっています。シンプルな線でデフォルメされた人物が丁寧に書き込まれているため、複雑な背景に負けることなく、存在感を持ちました。

左の作品は写実、右の作品はイラストの模写と違ったアプローチの作品ですが、二つの作品とも、タッチの繊細さや丁寧さが伺え、村田さんの個性が乗った作品になっています。違った方向性を試すことで、より自分が描きたいものや表現したいものが磨かれるかと思います。これからの村田さんの作品も楽しみにしています!

絵の主役として魅せる


植松 油彩

こんにちは、マユカです!今回は植松さんの作品をご紹介していきます。

厳しい自然の中を生きる動物を描いた二枚の作品、ぬくもり感じる動物同士の触れ合い、じゃれあいがかわいらしいですね。
左は白クマ2頭がいますが、メインが流氷ですので白クマがとても小さく、細かい表現が描きづらい油絵でした。「動物と棲む場所」では生き物が主役になりがちな題材ではありますが、あえての背景がメインなだけあり、流氷のごつごつとした質感をたっぷりとした絵の具の盛り上がりも利用して表現することで、実際にそこに在るかのようなリアリティが生まれています。くっきりとした景色が、透き通って冷たい空気を感じさせてくれるようです。

右は「なんの動物がどうなっているのか?」を伝えることに大変苦労されたのですが、皆様わかりますか?カンガルーの袋に入った赤ちゃんを、首を前傾に曲げたお母さんが舐めているところです。カンガルーってこんなに体が柔らかかったんだ!と驚きのある構図になっているんですね、つまり画面の大部分がお母さんのおなかで、ピンクの部分が袋のふちになります。(余談ですが育児嚢はポケット型ではなく、赤ちゃんが大きくなって中で動き回っても大丈夫なように、巾着型で伸縮性があるそうです。)
有袋類のカンガルー自体が一般の人に馴染みが無く、しかもアップで一部分しか描かないというのは、
状況説明が大変困難です。しかし慈しみのあるお母さんカンガルーの表情や、ゆったりと安心したような表情の赤ちゃんから「親子の動物」「頭しか見えない(体がない)」の連想ゲームでも描かれているのがカンガルーであることが読み取れますね。

伝えたいものが明確であれば、構図を決めるときや塗っているときなども「どこを目立たせたいか、どう目立たせるか」だけを考えて絵具を置くことが出来ます。そうすると筆の迷いが比較的少なくなり、メインモチーフにかける時間が多くなり、必然的にクオリティが高く見えます。先にメインを決めるという描き方はデッサンなどでも使えるので是非活用してみてくださいね!

更に進化していこう!


渡邉 鉛筆デッサン

岩田です。今回は、渡邉さんのデッサンをご紹介します。現在まで、多くのデッサンを描いてきた渡邉さんですが、本日は、その中でも特に頑張って描いた8点をピックアップしてご紹介します。

大人クラスの生徒の皆さんも経験した、ポットと積木やワイン瓶と洋ナシのデッサンを描いている始めの頃から、モノを観察し、それを画面に写し取る基本的な力がある方だというのが分かります。かたちをそつなく取れることと同時に、金属やガラス、布といった質感の描き分けも実に自然です。

渡邉さんの特徴として、鉛筆の扱い方が繊細で、微妙なトーンがとても綺麗。
例えば、写真一番下の薄いブルーのホーローポットは、立体感を出しながらも下に敷いた白い布が映り込んだ反射をどうやって描くのだろうと皆さん迷った筈ですが、限られた色の幅の中で、微細な調子の変化を読み取り、それらを上手に表現しています。

これだけ静物デッサンを描ける作者だからこそ、石膏デッサンも更に進化して欲しいと思います。石膏像は、元々大理石彫刻を原型として型を取っているので、形に関しては、本当に厳しく見て、最後までチェックしていかないと、その違いが如実に表れてしまいます。
そうした意味で、ラボルトのデッサンを見ても、もっとシビアに対象を観察する必要があるでしょう。渡邉さんは今まで何体もの石膏像を描きましたが、色々な種類を描いていると、それぞれの像の違いにもっと敏感になるし、同じ像を様々な角度から何度も何度も描き続けることで、一度描いただけでは気づけないことが発見でき、像に対して興味が湧いてくるものです。

是非、そうした視点で、あらためてチャレンジしてみてください!

描くことを楽しむ為の描画材


松尾K 鉛筆

岩田です。いやー今週も暑かった。しかしそのお陰で小学生のイベントも大成功のようで何よりです!

本日は、松尾さんの作品をご紹介します。
松尾さんは、今回が初めての作品掲載になりますが、特に風景を鉛筆で描くことがとても好きで、これまでも、龍安寺の枯山水やご自身で撮影した川の風景などを描いてきました。

白と黒だけで表現するシンプルな描画材だからこそ、奥が深く、工夫によって驚くような表情を見せてくれるものです。作者もそうした工夫という意味では余念がありません。

例えば電動で先が動く消しゴムや8Bや10Bなどの通常では使わないくらいの濃い鉛筆を駆使しています。そうすることで、描くことが楽しくなったという言葉も聞いていて、今回描いた波の表現においても、そうした心持ちが反映されているように思います。

掲載した作品は、伊勢の海岸にある二見興玉神社の夫婦岩。
作者が今まで選んだものの中でも、決して容易には描くことができないであろうモチーフ。
でも、そうしたことを苦と思わず、チャレンジし攻略しようとする気持ちが、描画材への工夫へと繋がっているのでしょう。

前述したような緻密で滑らかな白波立つ水面、それと対比するような黒い岩の硬い表情、そして向こうに見える夫婦岩を微妙な濃淡で美しく描いています。建物の後ろの山にも細かい描写がされており、様々なバリエーションで楽しませてくれますが、その分、どこに視点を置きたいのかという意味では散漫なようにも見えます。

これからは、写真をそのまま参考にするというところから、もう一歩進んで、「絵を作る」という観点で描いてみましょう。

隅々まで描き切る気概


大塚 鉛筆デッサン

大竹です。今回ご紹介させて頂くのは、大塚さんの鉛筆デッサンです。入会してこちらでお勧めする鉛筆デッサンが終了後も、続けて基礎固めを続けていらっしゃっる大塚さん。現在持てる力・技を全て出し切った渾身のデッサンです。黒〜グレー〜白までの色の段階を作る事が出来ていますね。デッサンでは、持っている全ての濃さの鉛筆を使い、モチーフの細かな色の変化を追う必要があります。隅から隅まで、全てを描き切ってやろうという気概が感じられます。
また、色は濃くするだけではなく、時には練りゴムで白を作っていく必要もあります。消すというよりも、白い線を描き加えるイメージで進めていくとより良いでしょう。なんだか真っ黒になってしまう・色の幅が出ないという人は白い部分を作る意識をしてみて下さい。特に金属などは黒さと鉛筆の線の密度が必要となってきますので、沢山線を引いては消してを繰り返して調整していく必要があります。ランプ・アイスペールなどは金属の重みがしっかりと出ました。デッサンで学んだ描き方は、油絵や水彩など、他の表現でも活用する事が出来ます。是非色々な物に挑戦し、様々な物への理解を深めていって欲しいと思います。

次回からは石膏デッサンにチャレンジされるとの事。これまでの静物デッサンとはまた違った難しさがありますが、この気概を持ったまま挑んでいってほしいと思います。

デッサンで得たものを油彩に


服部 鉛筆デッサン

岩田です。本日は、服部さんのデッサンをご紹介します。

油彩をずっと続けて描いてきた服部さんですが、ここにきて、もう一度モチーフをただ観察し描くことで、様々な気づきを得ていこうという気持ちになり、デッサンに励んでいます。

掲載した2枚のデッサンを見ると、出来るだけモチーフに寄り添い、丁寧に描き進めていることが見て取れますね。
漠然とモチーフを選び、並べるのではなく、個々のモチーフを吟味し、それらが台上に置かれた時の雰囲気や佇まいを特に大事にされていて、デッサン一つ取っても、それを1枚の作品として仕上げたいという作者の意思を感じます。

ガラスや布に増して、ドライフラワーには、強い思い入れが感じられ、その形状や質感をどのように画面に再現していこうかという工夫が見られます。順番としては右手の方が新しく描かれたもので、薬瓶の横に置かれた花や実は、1枚目のそれよりも複雑なものですが、根気よく緻密に描き切っています。

鉛筆でこれだけのものを描くことができるので、描画材が絵の具に移行した時に、確実に良い効果が表れると私は思っています。

今回描いたものをもう一度油彩で描いてみても良いですね。
描くことで得られた気づきを胸に、鉛筆で出せたこの雰囲気や佇まいを絵の具でも表現することができるか実験してみては如何でしょう。

デッサンから感じる空気


朝倉 鉛筆デッサン

サヤカです!雨だとちょっとしたことが億劫になってしまいますね…

今回は、月曜クラスの朝倉さんの作品をご紹介します。デッサンを極めています。
ブリキのじょうろ、小さなブロック、枯れた木の枝と、それぞれ違った素材のモチーフを組み合わせました。モチーフの質感・重量感・空間・距離感を考え丁寧に追っていて、時間を掛けて堅実に観察したことが伝わってきます。明暗差のコントロールも素晴らしいです!暗い穴の部分(じょうろのタンク・ブロックの穴・枯葉の重なりの奥)と、光が当たる部分(ブロックの上面・枯葉の上面・金属のハイライト)の差がしっかりついているため、メリハリのあるデッサンとなっています。明暗差がきちんとついていることで、中間色のグレー部分も映えて見えますね。また、工業製品のじょうろとブロックが奥にあることで、手前の自然物である木の枝の乾いて婉曲した自由な動きに惹かれます。裏表に反り、ねじれ、折れ曲がる葉は、重なりも立体感も非常に綿密で、生み出された空間までもが美しい表現となりました。

デッサンはモチーフだけでなく、取り巻く空気を感じさせられるのが理想ですが、朝倉さんの作品からは静謐な穏やかさを感じます。そんな心地よいデッサンを描く朝倉さん、次作は油彩にチャレンジされるとの事。違う画材でどのような空気感を纏わせるのでしょう?これからも楽しみにしています!

繊細な表現


岩井 鉛筆デッサン

ナツメです。8月も残すところ1週間となりましたが、一体いつになったら涼しくなるのでしょうか。本日は水曜大人クラスの岩井さんの作品をご紹介します!3枚目のデッサンになります。瓶の水差しと植物、そして金属製のポットを組み合わせました。

今回モチーフに選んだポットは鏡のように周囲の風景が映っていますが、ポットに映り込む教室内の様子まで非常に良く観察して描画されました。そのおかげで、ツルツルとした金属の映り込みの表現のみに留まらず、このモチーフがどんな環境で描かれたのかという周囲の状況までもが手に取るように伝わります。反射率の高い瓶とポットも、どちらもしっかりと描き込んだ上で見え方の差をつけている点が素晴らしいですね!デッサンは8割が見る作業だと言われるほど観察が重要なのですが、ここまでそれぞれの特徴を掴み細部を描き分けることができているのは、真摯にモチーフと向き合い観察した成果でしょう。

中間色(グレー)の表現も巧みです。一番色の濃くなる黒い水差しに強く暗い色を乗せたため、画用紙の白から水差しの黒までの画面全体の明暗の幅が広くなっています。反射や布の僅かな明暗の差をコントロールすることで、より繊細で具体的な描写をすることができました。

『デッサン』とは形をとらえて描く基礎トレーニングですが、こちらは岩井さんのフィルターを通した美しい『鉛筆画』として額に入れて飾れそうですね。デッサンとして形や質感を追うだけではなく、モチーフそれぞれがどんなものなのかと向き合い、岩井さんの感じ取った魅力が伝わる作品になりました。基礎デッサンを終えどんな作品を描かれるのか、楽しみにしています!

偶然が生む形


石坂 グレーデッサン

マユカです。本日は石坂さんの作品をご紹介します。

軽そうに見えて、意外にもずっしりとしている鹿の頭蓋を、墨汁やチャコールペンシル・パステル・鉛筆・木炭など、あらゆる白黒の画材を駆使して、グレーの画用紙に描かれました。
骨に落ちた影は力強く、角に当たる光は繊細に、奥へ行くほど白を薄く(少なく)して遠近感を演出しています。ここまで大胆に描いているにもかかわらず、凹凸が表現しにくい歯列を、潰さずに描かれているのを見るに、見やすいデッサンがどうであるかをしっかりと理解されているように感じました。

また、大きくにじみ広がった地面の影もかなり目を惹きますね。画板を立て、墨汁を垂らし、意図しない形へと変わる影を、その上からさらにどんどんと描き進めていくことでモチーフとなじませ、自然でリアリティを感じる画面の中に、2次元的な表現が加わることで、見ている私たちに新しさを感じさせ、興味を引くような形になっています。
石坂さんはずっと白黒の絵画(デッサン)にこだわって制作されていますが、偶然を活かすこのような技法には翻弄されていらっしゃいました。
岩田先生の勉強会でのアクションペインティングにも応用できそうなテクニックです。

偶然的にできる形や模様を活かそうとすることで、思い通りにはいかないという状況を自分から作り出すことが出来ます。意図していないからこそ、今まで試したことのない表現に挑戦したり、新しい表現を発見したりなど、偶然に生成されたチャンスを、さらなる作品作りに活かしてもらえたらなぁと思います

今にも飛び立ちそうな雉


左 寺内 / 右 林

マユカです!今回は土曜午後クラスの寺内さんと、日曜クラスの林さんの鉛筆デッサンをご紹介します。

お二人が描かれたものは、雉のはく製です。その勢いのあるポーズはもちろん、暗い羽の色と細やかな美しい模様が特徴的で、陰影のつけ方に苦戦しがちなモチーフなのですが、描きどころとあまり描かずに抑えるべき点をしっかりと描き分けることにより、とても見やすく、清潔なデッサンになっています。首元やお腹周りの黒に惑わされず、身体の立体感がしっかりと出ており、光を受けて艶めく背中が美しいですね。
また、見やすさの理由には模様の描き方もあるかと思われますが。雉の特徴的な羽の模様を全体的に描いてしまうと、立体感を損なってしまったり、画面がごちゃついてとても見づらくなってしまうものですが、全体ではなく手前や大きな尾羽だけにはしっかりと模様を描きこむことで、画面が自然に写真のピントのようになり、よりリアリティのある一枚になったのではと思います。

どちらもかなりの時間を掛けて制作されていらっしゃいました。木炭紙大(65㎝×50㎝、キャンバスで言うとF15号)なので、制作するにあたっては、かなり大きく感じられたと思います。こういった大きな画面にデッサンする際、どうしても描くモチーフが画面の中では実寸大かそれ以下になってしまいがちです。
大きく配置する、というのは簡単なようで、実はかなり思い切りが良くなければ出来ないような構図のとり方なのです。大きく配置した分だけちょっぴり形を取るのが難しいですが、細部に描きこみがしっかりできたり、離れて見たときの見栄えがとても良かったりと、いいことづくめ。皆様も大きなモチーフを配置したデッサンを描く際には、『画面に合わせようとしすぎず、少し端が切れてもいいから大きめに』を意識して構図を取ってあげたら、堂々としてカッコいいデッサンが描けますよ!