
玉置 岩絵具/和紙・パネル
大竹です。今回ご紹介させて頂くのは、玉置さんの日本画です。6月に展覧会のご紹介をしたのを覚えていらっしゃる方も多いでしょう。(ブログはこちら)
本作は、煙とも雲ともつかない不定形の存在を画面にとどめています。輪郭をもたず、掴むことはできないのに、確かにそこにあると感じさせるもの。それは人がふと立ち止まり、思考を凝らすときに現れる、曖昧で移ろいやすい気配のようにも思えます。
その気配の発生源は、画面下部に描かれた萎れた草木の一片のように見えます。茎から切り落とされ、やがて土へ還るであろう小さな命。そのはかなさから立ちのぼるように広がる気体は、煙にも、魂にも、あるいは自然界の循環を可視化したものにも見えてきます。観る者の心の中で形を変え、印象を変えていく可変的な存在は、まるで空に浮かぶ雲を眺めながら、それぞれが異なる形を見出す体験に似ています。
画面全体を覆うのは、岩絵の具特有のざらついた質感と、土色を基調とした落ち着きのある色合いです。ところどころにわずかに差し込まれる青や赤の彩度が、濁流の中の小さなきらめきのように作用し、沈静と生成を同時に感じさせます。その風合いはどこか仏教画を連想させ、輪廻や無常といった思想とも響き合うように思われます。
玉置さんがこれまで取り組んでこられた抽象的な表現は、この作品においても健在です。描かれているのは具象的な何かではなく、現れては消える現象そのものであり、鑑賞者に解釈の余地を大きく委ねています。その余白に鑑賞者の体験が結びつき、イメージを超えた精神的な響きを与えているのではないでしょうか。