観察と想像から生まれた表現

菜希 中2 岩絵具/和紙・パネル

お久しぶりです、サヤカです。今回は学生クラスの日本画をご紹介します。

まず菜希の作品をご紹介します。落ち着いた雰囲気の夜桜を描きました。月の姿は描いていませんが、中心に向かって明るくなっていくグラデーションの様子が月明かりのようで神秘的。明るい薄紅色が映えるように、空の明度をかなり低く抑えました。また、枝を暗く描くことで、逆光のような演出をし、より月の存在を感じさせます。
一枚一枚丁寧に描かれた花びらから観察力を感じます。シンプルな構成ですが、大胆に中心を余白にし、奥行きのある作品になっていますね。

彩希 中2 岩絵具/和紙・パネル

次は彩希の作品です。鮮やかな色使いが目を惹きます。厚く盛られた岩絵具が、花びらに豊かな質感を与え、まるでそこに本物の花が飾られているかのような存在感を生み出しました。全てが暖色の中、ほぼ無彩色にした葉の部分がスパイスとして効いていますが、花よりむしろ葉の重なりや奥行きが丁寧に表現されているようにも感じます。
左から伸びた手も想像力を掻き立てますね。花に触れようとしているのか、それとも何かを訴えかけているのか…不思議な魅力を持つ手、皆さんはどのように解釈されるでしょうか?

二人とも花をモチーフに描きましたが、桜の侘び寂びと、チューリップの華やぎが対照的で、静と動、寒色と暖色、花に対するイメージの違いが面白いです。これからも二人の作品を楽しみにしています!

絵の裏側を読む

左 杏和 高1 / 右 真大 中1  岩絵具・和紙・パネル

オバラです。久し振りに小学生以外の講評を書きます。
杏和 実際にいる動物か、絶滅した動物か、はたまた杏和が生み出した架空の動物なのか?洞窟のような岩場の中で背中を丸めペタンと座る生き物は、どこかユーモラス。
とは言え、不安げな眼差しから、雪舟『慧可断臂図(えかだんぴず)』の達磨大師を彷彿とさせます。達磨からなかなか弟子入りを許されなかった慧可が、自分の覚悟を伝えるために自らの肘を切って達磨に差出し、入門を許されたという逸話を描いたものです。
達磨もこの生物も一見コミカルですが張りつめた緊張感が漂います。取り巻く環境(絵のフレーム外に起っている事柄)の過酷さを想像してしまいました。
心情を表すように何度も色を重ねた主役に対し、平坦な塗り方の黒に荒々しく雑な黄土、この描き込みの差こそ、題材の奥深さを支えるテクニックなのです。

真大 一般的な中学生に好まれる繊細でリアルな画風に馴染むことなく、毎回オリジナリティーを貫いている真大。輪郭はまるで黒色のマーカーペンを滑らせたように均一な太さで描かれています。このとぼけたような印象を持つ絵に惹きつけられる理由、それは一体何なのか?
答えは不思議な構図にあります。俯瞰だったり真正面だったり、1枚の絵に幾つもの視点があるのです。もう一つは、立体感をことごとく無視し、単純化した形のリズムの面白さ。おかしな箇所があるのにそれが魅力になるとは羨ましい話ですが、細部にとらわれず全体像を捉え、複雑なものを理解し再構成する思考力がなければできません。バランスや構造の本質を見抜く洞察力が必要なのです。

オズフェスタ

今年も元住吉のお祭り、オズ通り商店街【オズフェスタ】に参加させて頂けることになりました!
来週の日曜日10月5日12時から16時、元住吉駅の1階エスカレーター脇に展示しています。
展示作品は、中高生の日本画と、小学生の自画像紙版画です。
11月には生徒作品展がありますが、かしこまって「絵を見に来た」と身構えない、「駅を利用したら展示があった」「お祭りにふらっと来たら絵が飾られてる」という人たちが気軽に見てくれる環境ですので、私も毎回とても楽しんでいます。
ぜひ皆様お祭りに遊びにいらしてくださいね! 小原

東口商店街オズフェスタイベント概要
 日程: 2025年10月5日(日)
 場所: 元住吉・オズ通り商店街内
 パレード: 11:45~12:00
 フードストリート・縁日・フリーマーケット: 12:00~17:00

西口商店街フライマルクトイベント概要
 日程: 2025年10月5日(日)
 場所: 元住吉・ブレーメン通り商店街内
 フードストリート・縁日・フリーマーケット: 12:00~17:00
商店街がまるごとフェス会場になる「フライマルクト」詳しくはこちら

うつろいゆくもの

玉置 岩絵具/和紙・パネル

大竹です。今回ご紹介させて頂くのは、玉置さんの日本画です。6月に展覧会のご紹介をしたのを覚えていらっしゃる方も多いでしょう。(ブログはこちら

本作は、煙とも雲ともつかない不定形の存在を画面にとどめています。輪郭をもたず、掴むことはできないのに、確かにそこにあると感じさせるもの。それは人がふと立ち止まり、思考を凝らすときに現れる、曖昧で移ろいやすい気配のようにも思えます。
その気配の発生源は、画面下部に描かれた萎れた草木の一片のように見えます。茎から切り落とされ、やがて土へ還るであろう小さな命。そのはかなさから立ちのぼるように広がる気体は、煙にも、魂にも、あるいは自然界の循環を可視化したものにも見えてきます。観る者の心の中で形を変え、印象を変えていく可変的な存在は、まるで空に浮かぶ雲を眺めながら、それぞれが異なる形を見出す体験に似ています。

画面全体を覆うのは、岩絵の具特有のざらついた質感と、土色を基調とした落ち着きのある色合いです。ところどころにわずかに差し込まれる青や赤の彩度が、濁流の中の小さなきらめきのように作用し、沈静と生成を同時に感じさせます。その風合いはどこか仏教画を連想させ、輪廻や無常といった思想とも響き合うように思われます。

玉置さんがこれまで取り組んでこられた抽象的な表現は、この作品においても健在です。描かれているのは具象的な何かではなく、現れては消える現象そのものであり、鑑賞者に解釈の余地を大きく委ねています。その余白に鑑賞者の体験が結びつき、イメージを超えた精神的な響きを与えているのではないでしょうか。

幻想的な光の中で

星川 岩絵具/和紙・パネル

ひとみです。昨日の坂本さんの小鳥に続き、星川さんの日本画を紹介していきます。

画面中央に佇むゴシキノシコ、最初に見た際に彩度の高い生き生きとした色がすっと入り、華やかで見ていて心躍るような画面だと感じました。まるでこちらを見ているような真っ直ぐでつぶらな瞳に思わず目を惹き付けられます。

日本画で羽毛を表現するのは難しいですが、一本一本まで細やかな気配りを成されることで、遠くから見ても柔らかでリアリティのある描き方ができたのでしょう。光が当たっている部分に色彩の意識が見られます。また、後ろの羽の重なっている部分に落とした影から、徐々に光に変わるグラデーション、そのリズムを崩さずに描き切ることで遠目から見た際にも羽の細かな重なりを感じられ、丁寧な仕事から星川さんのこの鳥に対する愛着を感じられました。

特筆すべきは背景の岩絵具のパール粉の美しさ。パールのきらめきが加わることで鳥にも劣らぬ華やかな緑が一層の輝きを放っています。そこには幻想的な光が漂い、春の麗らかな陽気を思わせる、やわらかな空気感に包まれた森が広がっています。繊細な観察眼と大胆な色彩表現が見事に調和した、星川さんならではの一作となりました。

ひと枝の上の存在感

坂本 岩絵具/和紙・パネル

待ちに待った秋の到来に大喜びしています、ナツメです。今日は月曜大人クラスより坂本さんの日本画をご紹介します!
枝にちょこんと乗っている姿がなんとも可愛い、こちらはエナガという小鳥で、近年人気を集めているシマエナガの原種にあたるそうです。真っ白な羽毛のシマエナガと比べると目の上に眉毛のような黒い線があり、どこかきりっとした凛々しさが愛らしいですね!空に浮かぶように静かに佇む姿が画面にやさしい雰囲気を広げています。

体の部分は白を基調に淡い茶色を重ね、やわらかな線で表されているため、ふんわりと膨らんだ毛並みが伝わってきます。一方で、翼やくちばしには黒をしっかりと効かせており、羽ばたきに耐える硬さや張りが感じられます。部位ごとに異なる質感を描き分けることで、まるい体のフォルムと相まって生命感がぐっと増しています。

背景には紫や青、緑が幾重にも重なり合い、深みのある色合いをつくっています。様々な色を乗せていますが、全体的に似た暗さの色同士を選んでいます。一方で、枝には背景よりも鮮やかな茶色が使われ、暗さの度合いは揃えつつも色相の差で自然に際立つよう工夫されています。
小鳥にしっかりとピントを合わせて、背景をぼかした写真を思わせる描写は、一羽をどう魅力的に見せるかを考え抜いた結果だといえるでしょう。

油絵Vol.7 小学3年生

上段左から 拓磨・壮佑・虹波・萌々香
下段左から 悠翔・理桜奈・海斗

拓磨 生命力に満ち溢れた威嚇するカマキリ、こんな風ににらまれたら誰もが委縮して観念してしまうでしょう。実は赤は下塗り。拓磨の塗り方がオーラのように見えたので、このままいっちゃえば?と煽ったのでした。

壮佑 スターウォーズのチューバッカのような、毛むくじゃらの犬の顔が非常にインパクトありますねぇ!ヌルヌルしている油絵具はフワフワを描くのが一番難しいので、苦心の上、最後にオイルパステルを多用しました。

虹波 南の海で色鮮やかな熱帯魚たちが優雅にのんびり泳いでいます。一生懸命描いた魚たちも素晴らしいのですが、背景のイソギンチャクや岩のあまり手を入れない抜き加減が良い塩梅で、主役を引き立てているのです。

萌々香 弟を抱っこする萌々香、嬉しそう!赤ちゃんの顔色と、小学生の肌の色を描き分けているのが素晴らしい観察力。が、背景は集中力が切れて、緑のベビーサークルとかいい加減。ギャップ萌えって事で!

悠翔 涙が出そうなくらい刹那的でありながら、情熱がほとばしる油絵。今この瞬間を最大限に味わい、大切に生きようと、この絵の前で誓ってしまいます。パワフルで笑顔が絶えない悠翔だから描けた夕日だね。

理桜奈 メジロの周りを引き立てるように斜めに入れた青がイカス!実は椿以外全て緑の写真だったものだから、最初は全面緑尽くしでどこに鳥がいるか分かりませんでした。誘導して青を入れたらこんなにお洒落に!

海斗 ムーンウォーカー 、かっけー!マイケルは不変の人気という事が分かりますが、9歳にしてこれを描きたいという海斗がクール!しかし、下書きのデッサンだけで4時間も掛かりました。汗と涙の結晶なのです!

油絵Vol.6 小学3年生

上段左から 琢磨・巽巳・航也・妃菜
下段左から 舞・和花・亜弥萌

琢磨 ゴッホの模写。しかし皆様の記憶にある向日葵の絵と違う感じがするのは、背景の色のせい。本当は背景も黄色なので、さすがにそこまでたくさんの黄色は難しく、青にしてもらいました。賑やかですね。

巽巳 毎年油絵で家族を描いていますが、今年はお花畑の前でお姉ちゃんと。満面の笑みとしゃがんだポージングがとっても魅力的!顔の色は反射光まで良く見て工夫しているのに、花はおざなりなのがまた微笑ましい。

航也 ハワイでヨットを操縦する自分。自分と帆に赤、海と空に青、ダイヤモンドヘッドに黄色、と三原色が使われていますが、ヨットの白が画面を繋げる役目をしています。日焼けした航也の真面目な顔が良い!

妃菜 2匹がお花畑の前でおすまし。うちの子だから絶対メチャクチャ可愛く描きたい!と意気込んでいました。色の作り方・置き方が点描なので、くるくるの毛並みにピッタリですね。空の描き方もとっても魅力的!

舞 ライオンの毛色の複雑さと言ったら!アフリカの強い日差しに輝く黄金のたてがみ、短毛のボディーにも多くの混色が見らるのに、まとまっているところが凄い!舞は色彩センスが抜群に良いですね。

和花 七五三の自分と振袖姿のいとこのお姉さん。なんて美しい和装の共演でしょう!お姉さんを見つめる和花の眼差しも、肩に手を掛けるお姉さんの優しさも、全てが映画やCMのワンシーンのようです。

亜弥萌 印象派の油絵のようでもあり、デザインの平面構成にも見える、豊富な種類の青が目を惹きます。よくこんなに作れました。寒色の多い画面の中でひときわ映える赤、恐ろしい口がドキリとします!

油絵Vol.5 小学2・3年生

上段(2年生)左から 紗良・龍成・朱里・唯可
下段(3年生)左から 陸斗・皓仁・歓奈

紗良 なんて優しそうなタランチュラ!遭遇したら弱毒と分かっていてもビビってしまう風貌はとても上手に描けているのに、周りの風景がピクニック気分でのどかな気持ちになるんですよね。題材に選んだ紗良が面白い!

龍成 ぶどう狩りで立派なマスカットを収穫したドヤ顔のはずなのに、こんなにやわらかく描けるとは素晴らしい!低学年は曖昧な色味を作るのが苦手な子が多いのですが、中間トーンで描けるのは本人の優しい性格ありき。

朱里 とぼけた顔にも、必死の顔にも見える、花の蜜を吸うメジロ。一生懸命取り組むけど、のほほんとしている(ように見える)朱里そっくりなんです。花札のようにデザイン的な構図・色彩は非の打ちどころが無く完璧。

唯可 ティアラとネックレスを付けたアメショ可愛い!と思いきや、頭に被っているのはレジ袋。唯可に掛かれば、どんなモチーフだってキュートになってしまいます。背景の家具のぼかし方、偶然ですが遠近感が出ていますね。

陸斗 カクレクマノミの朱色とイソギンチャクの緑、反対色なはずなのに馴染んでいるのは、緑の中に紫や黄色が入っているから。相利共生にある生き物達ですから、どこかで一体感を出したいと考えていたのかもしれません。

皓仁 皓仁と言えば電車!で日本画ですら電車を描いたのに、今年の油絵はカワウソ?とモチーフ選びで驚きました。笑っているように見えるカワウソは、常に余裕(に見える)皓仁そっくり!笑顔で皆が癒されています。

歓奈 グレーのウサギに、よくここまでたくさんの色を入れられました!観察力と言うより、想像力が豊かな証拠。元気一杯ビタミンカラーの向日葵に負けぬウサギの存在感は、この色彩センスのお陰で出せたものです。

白銀の龍、黄金の月

阿出川 岩絵具/和紙・パネル

大竹です。今回ご紹介させて頂くのは、阿出川さんの日本画作品です。
夜空に浮かぶ黄金の月へと昇りゆく、白銀の龍の姿が描かれています。龍は古来より、人々の祈りや願いを託されてきた存在であり、また「登竜門」の故事が示すように、困難を乗り越えて大成する象徴として尊ばれてきました。画面に現れたこの龍もまた、ただ天空に舞い上がるだけでなく、試練を超え、なお高みへ挑もうとする気迫を宿しています。その姿は、観る者に勇気や力を与えてくれるようです。

白銀に輝く龍の鱗は、一枚一枚が丁寧に描き込まれ、強靭さと気高さを表しています。それに対して、天空に輝く黄金の月は満ちゆく力と安らぎを兼ね備え、画面全体の象徴的な存在となっています。この「白銀」と「黄金」の対比が、作品にいっそう神秘性と格調高さをもたらし、龍と月が互いを引き立て合いながら一幅の物語を紡いでいるのです。

さらに注目して頂きたいのは、背景に漂う深い緑の絵の具の表現です。日本画ならではの、岩絵具の重なりによって生まれる独特の質感が魅力的ですね。煙のように揺らめくその色彩は、夜の闇の中で形を持たない気配を掴み取ったかのようで、龍の存在を際立たせながら、観る者を幻想的な世界へと引き込みます。

月に挑むかのように天を仰ぐ龍の姿は、ただ題材としての「昇り竜」を超えて、阿出川さんご自身の制作姿勢を語っているように思われます。常に妥協せず、真摯に表現へと挑む姿勢が、そのまま龍の雄々しさに投影されているのでしょう。作者の意志が込められた一枚として強い迫力を放ち、観る者に希望や奮起の思いを呼び起こす、まさに「縁起の良い」作品と言えるでしょう。