穏やかな鴨の親子

山本 油彩

大志です!もう7月ですが、夜は意外と涼しくて過ごしやすいですね!それでも、土曜に聡先生も書いていたように、「蒸し暑くて蝉の鳴き声が響く本格的な夏が、早く来ないかな〜」なんて思っています。笑

さて今回ご紹介する作品は、鴨の家族の油彩画です。まず第一印象はなんと言っても優しく穏やかな雰囲気。見ているだけで心が落ち着くような作品です。色彩による遠近感の表現も見事で、奥へ進むにつれて色彩が淡く薄く溶け込むように変化し、自然な空間の広がりを感じさせます。対して手前の草むらは、黄色や白を織り交ぜた筆致によって春に咲く花を抽象的に表現されており、写実的に描き込みすぎないことで、作品全体にどこかほのぼのとした温かい空気感を生み出しています。

鴨たちの表現は言うまでもありませんが、特に目を引く親ガモは繊細な筆使いによって羽一枚一枚、さらには羽毛の一本一本まで丁寧に描き込まれており、お腹のふっくらとした丸みも見事な立体感で表現されています。模様のある羽のような情報量の多いモチーフで自然な立体感を出すのは簡単なことではなく、鋭い観察力と高い技術が感じられます。

さらに、親の後ろを一生懸命ついて歩く子ガモたちの姿もとても愛らしいですね。小さな足でちょこちょこと歩く様子が伝わってくるだけでなく、親と子の毛並みの柔らかさや細かさの違いまで描き分けられており、水をはじく親ガモのシュッとした風切り羽に対し、飛ぶことができないふわふわの羽毛のやわらかさ、また距離感による5羽の描き分けなど、細部へのこだわりが作品全体のストーリーをより一層深めています。

実は山本さん、この絵の前に剥製の鴨とネギなどの鍋具材を構成したデザイン的な油絵を描いていらっしゃいましたが、未完成で止めています。そこから多くの学びを得て、この癒しの作風になったということは、前作は決して無駄ではなく必要なプロセスだったのだろうと思いました。

色彩と質感

増村 油彩

サトルです!去年は6月中に梅雨明けしたので、今年は遅く感じますね。涼しい日々が続いています。汗をかかなくて過ごしやすいのですが、ふとした時に青空が恋しくなります。

今回ご紹介するのは増村さんの油絵です。10号と少し大きめのサイズ。アフリカと思われる路地で、小さな弟を思いやるお兄ちゃんの優しい姿に心が温かくなります。細かい砂をふんだんに油絵具に混ぜ、マチエールを効かせた壁面に囲まれた画面を作りましたので、過酷な環境に対する子ども達の小ささ、健気さ、逞しさを物語っているように見えます。
建物の間から差し込む光がドラマチックですね。その分、影が子供達を引き立てながら、手前の暗がりへとつながり遠近感を生み出しています。画面の外側の世界から差し込む様に描かれた光は、子どもたちの頭上まで広がる際限のない壁の閉塞感の中で、未来を感じさせられる素晴らしい情景描写です。

ほぼ生の白絵の具と同等の明るさで、普通でしたら抵抗感が無くなってしまう所ですが、砂のマチエールを敷いておく事で壁らしい重厚な質感と強い光を両立しています。
奥の光に対する手前のモチーフの描写は緻密ながらも抑揚があり、それぞれの建材の微妙な質感の差が上手く表現されていて、見れば見るほどその深みに吸い込まれていきます。特に足元の道は非常に良く描けており、水たまりの反射とタイルの微妙な変化、その横の砂地の表現がとてもカッコいいですね。
個人的に、こちらの作品で一番魅力的に感じているのは、画面全体の配色です。青みの光から道の黄色やオレンジへと繋げるため、間に薄紫が塗られていたり、子ども達の下の道をターコイズブルーにしていたりと、現実にはあり得ない様な色で塗っていますね。しかしそれをリアルな風景に見せるテクニックがあり、自然と世界の中へ入り込めます。

ただ写真通りに描いてしまうと人を惹きつける作品にするのは難しく、風景が魅力的に見えるように形や色調を操作することが、描き手に求められる最大のスキルでしょう。すごく難しい事ですけれど、増村さんのように思い切って異素材(砂や砕いた貝殻・セラミックなど)のマチエールを利かせてみたり、非現実的な色を使うなど、一度自分の殻を破って自由に絵を描き始めると、作風の幅が無限大に広がって新しい絵の楽しみ方を知れると思います。また、描くだけではなく作品を鑑賞する時の視点の幅も広がります。「なぜこの画家はこんな色、形に描いているんだろう?」「現実の風景とはどの様な違いがあるのだろう?」と、画家が何を考えて描いていたのか想像する事が容易になり、幅広い視点で作品を見られる様になりますので、最近自己模倣気味な皆さんには特に新しいことに挑戦して頂きたいです!

作品に取り込まれる

服部 油彩

岩田です。昨日はお休みをしてしまい、土曜クラスの皆様にはご迷惑をお掛けしました。授業は欠席でしたが、ブログは書かせて頂きます。今回は、服部さんの作品をご紹介します。
「暗がり中の灯」といったところでしょうか。闇の中に、ふと、ろうそくに灯されたほの灯りが一つ。こちらは、M3号の縦長キャンバスに描かれた油彩です。

蝋燭の周りに置かれたグリーンが炎に照らされ、その一部が浮かび上がって見えます。床に投影された葉の影が、敷かれた茶色い布のシワに呼応するように波打ちながら、明るい場所へと溶け込んでいくように美しいグラデーションで表現されています。

背景は、黒に似た茶色が占めていますが、炎の粒子が空気中に放たれていく部分は、特に丁寧に描かれ、熱せられた蠟が溶けて艶やかに見えるところも、実に細やかに表現されているのが見てとれるでしょう。

確かに一番描かれているのは蝋燭やその周辺なのですが、それらを見た後、自然に背景に眼がスーっと誘導され、何も描かれていないはずの闇の中をただただ見つめてしまったら、この作品に取り込まれている証です。ものを見せるというより、静寂の中に没入させることこそが作者の真の狙いであることは、言うまでもありません。

荒波に再解釈を

加瀬 油彩

大竹です。今回ご紹介させていただくのは、加瀬さんの油彩作品です。

こちらは、葛飾北斎の浮世絵版画の傑作「神奈川沖浪裏」を油彩で模写した作品です。海外では「The Great Wave(グレート・ウェーブ)」と称されるダイナミックな波の姿を、油絵という素材の持つ重厚さと質量感で再解釈しています。
元の版画の平面的な表現とは異なり、油絵具をたっぷりと盛ることで、波の迫力と存在感が鑑賞者に直接迫るような仕上がりとなっています。特に波しぶき部分には、扱いの難しい銀の油絵具を使用し、キラキラと光を反射する美しい輝きを表現しています。さりげない華やかさは、まるで持ち主を引き立てる上品なアクセサリーのようであり、荒々しさの中にも品格を感じさせます。
背景は大胆にアレンジされ、ピンクから緑への滑らかなグラデーションに変更されています。伝統的な空の雲の表現を排除したことで、全体がよりモダンでお洒落な印象となり、現代的な解釈を感じさせる洗練された作品に仕上がっています。油絵のピンクは最も人工的な色の一つであるため、自然物と組み合わせたときに不思議な魅力を生み出しますね。
北斎が波の模様を繊細な線で表現しているのに対し、加瀬さんは油絵具のマチエール(絵の具の厚みや質感)を存分に活かして波を表現されています。そこには様々な色が加わっており、荒れる海の一瞬だけでなく、その前後にある情景の変化までも一枚のキャンバス上で再現しているかのようです。
また、元の作品に描かれている空の雲を一切排除し、フラットな面にまとめた点も印象的ですね。この思い切りの良い構成により、視線が自然と油絵具を厚く盛り上げた波の部分へと導かれ、作品の主役である波の存在感がより強く際立っています。

こうした日本の伝統的な浮世絵を、西洋の画材である油彩で表現することで、新たな鑑賞の角度が生まれるのが興味深いですね。特に油絵は絵の具の厚みによる半立体的な表現が可能なため、元来フラットな作品がこうして立体的になったときの意外性は、実際に描いてみないと分からないものです。皆さんも、好きな作家の作品を、一度異なる画材で挑戦してみてはいかがでしょうか?

夕暮れの帰り道

秦野 油彩

夏波です。今回紹介する秦野さん、小原先生に聞くとミオス在籍21年目だそうで、私が生まれる前から通われていらっしゃることに衝撃を覚えました!

夕方の帰り道に見かけるいつもの景色を描かれました。日中の慌ただしさが落ち着き、気温が下がり始めて心地よい静けさが訪れる時間帯、鮮やかな黄色の空と建物に反射する紫色がその刹那的な空気を連想させる作品です。
まず目を引くのが美しい高彩度の色彩です。その中でも地面の色が美しく、表面の暗い青色の下には明るい紫色や緑色が隠れていて、夕方の陽光に照らされたアスファルトが輝いているように見えます。さらに、内側から発光しているような明るい空と逆光の建築物が強いコントラストを生み出すことで、緊張感がプラスされました。

ペインティングナイフを主に用いて描かれているため、筆で描いたような滑らかで整えられた面はあまり見られません。しかし、強いコントラストで色面を構成することでぼやけた印象にはならず、むしろ絵の具の物質感と力強い色彩の対比が際立ち、存在感のある画面となっています。さらに、ペインティングナイフで描いたことで生まれた引きずり跡が、どこかブレているようにも見えてきます。その揺らぎが、何かを思い返している時の曖昧な記憶のようにも感じられ、作品にやさしく懐かしい雰囲気を与えていますね。何気ない日常の風景を描いた作品ですが、色合いとタッチでノスタルジックな気分に浸らせてくれるのも、この作品の魅力のひとつと言えるでしょう。

細部まで緻密に描き込まれた作品には魅力がありますが、この作品はそれとは違った方向から絵画の面白さを感じさせてくれます。ペインティングナイフによって生まれた質感や揺らぎは、単に風景写真を再現するだけでは生まれない表現です。記憶の中の鮮烈な印象を取り出したり、絵の具そのものの存在感を楽しむことができ、油絵ならではの表現の豊かさを感じます。

力強さと静けさ

大坪 油彩

大志です。あと1か月ちょっとで夏休み!……なのですが、大学3年生になり、周りの就活ムードに押されて呑気なことばかり言ってもいられません。学校では課題や制作に追われながらも、自分の将来について考える機会が少しずつ増えてきました。

今回ご紹介するのは、小さなモチーフを実物よりもかなり拡大して描いた2枚の油彩です。
左の作品は、バックに鮮やかな緑を背負ったクワガタが迫力のある構図で描かれています。普段なかなか見ることのできない下からのアングルは、クワガタの外骨格のディテールや足の関節など、描きどころが満載ですね!まるで今にもこちらへ向かって動き出しそうな力強さがあり、思わず目を引かれます。

クワガタの艶のある質感と、足に生えた毛のタッチの描き分けは流石です。硬い外骨格の光沢と、生き物らしい繊細な毛並みが同じ画面の中でしっかり表現されていて、丁寧さが伝わってきます。また、背景をシンプルにまとめることでクワガタそのものの存在感がより際立ちました。

一見すると力強くかっこいい印象の作品ですが、左側のボディラインに沿って描かれたユニークなサインからは、ご本人の優しく明るい雰囲気も感じられます。威圧するようなモチーフでありながら、どこか親しみやすさを感じるのは、作者の人柄が作品に表れているからかもしれませんね。

右の銀のプレートに乗せられたレモンは、鮮やかな黄色を残しつつも、どこか落ち着いた空気感をまとっています。クワガタの作品とは対照的に静かな時間が流れているようで、見ていると自然と気持ちが落ち着いてきます。

レモンの反射や陰影は部分ごとに繊細な変化があり、必要最低限のタッチで的確に表現されています。この簡潔な筆致は、レモンの凹凸や丸みをしっかりと面で捉えられている証拠。モチーフの立体感をより豊かに感じさせてくれます。また、銀のプレートに映り込む色や光の表現も美しく、主役であるレモンを引き立てながら画面全体に静かな奥行きを生み出しています。派手な演出はないものの、じっくり眺めるほどに形や光の観察力の高さが伝わってくる一枚です。

吸い込まれそうな遠近感

志村 アクリル

聡です。最近どんどん暑くなって来ましたね。今くらいの気温が半袖で気持ちいいので、このままの気候をキープしてほしいですが、自然の前に人間の願いはあまりにも無力、、、。今回ご紹介するのは志村さんの初めてのアクリル画になります。

海辺に建てられた素敵なデザインの邸宅が清々しい雰囲気で描かれていますね。夕暮れ時の徐々に暗くなる庭と、室内灯の柔らかい光の対比が魅力的な作品です。初めてのアクリル画とは思えない程、それぞれのモチーフが精巧に描かれています。

まず、画面右に描かれた邸宅は、建造物らしい重みと抵抗感を出す為、しっかりと濃度の高い絵の具で塗り込みました。その上で室内を明るく描き起こすことで外壁との調和が取れ、一軒の建物としての一体感が生まれています。画面端なので見落としがちですが、玄関に施されたタイル装飾は非常に緻密に描かれていて、志村さんの高い技量が感じられますね。

邸宅に対して、奥の夕焼け空は薄塗りで仕上げられています。紙の地の明るさを生かした表現で描いてあり、雲のフワッとした感じや、夕日のオレンジから青、紫へのグラデーションが見事。手前のヤシの木や邸宅が濃くて暗い絵の具なのに対し、空は薄くて明るい絵の具なので対比が効き、まるで海の向こうに吸い込まれそうになってくる程の遠近感です。アクリル絵の具は濃く使う事も、薄く使う事も出来ますが、大抵の場合薄塗りか厚塗りどちらかで統一します。しかし、両方を一つの画面に共生させる事が出来ればこんなにも奥行きのある作品に出来るのですね。

志村さんの描いている姿を見ている時に感じたのが、色彩感覚の鋭さです。画面全体を通して、全てが写真のようにリアルな色ですよね。アクリル絵の具に限らず、水彩、油絵でもチューブから出した絵の具をパレットでしっかり混ぜて色を合わせる事が基本です。志村さんはその基本をしっかりと守っていたからこそ、ここまでのリアリティを生み出せたのでしょう。

アクリル絵の具は現在ではかなり多くの作家やデザイナーが扱っていて、おそらく世界で一番使われている絵の具ではないでしょうか。耐久性に優れているのに早く乾き、厚塗りと薄塗り両方が出来る。ここまで便利な絵の具は他には無いですよね。弱点が無いと言っても過言ではありません。唯一弱点があると言えば、まだ開発されてから年月が経っていない事でしょうか。1950年代にアメリカで開発されたらしいのですが、100年、200年経った時にアクリル絵の具で描かれた作品が果たして無事な状態かどうか、それは実際に時が経たないとわからないのです。それに対して、油絵、テンペラ、壁画、日本画などの太古からある技法は、その年月が耐久性を保証してくれています。つまり油絵や日本画にしておけば絶対100年以上は作品が無事だという事です。まあ、自分の作品を100年以上後も誰かに見てほしいと思うかどうかはまた別の問題ですけれども、、、、、、。

調和の建築

矢作 油彩

大竹です。今回ご紹介させていただくのは、矢作さんの油彩作品です。
描かれているのは、オーストリア・ウィーンにある「フンデルトヴァッサーハウス」です。芸術家・建築家として知られるフリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサーが手掛けた集合住宅で、直線を嫌い、有機的な曲線や豊かな色彩を取り入れた独特の建築として世界的に知られています。大阪のごみ処理施設のデザインにも携わっているため、ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんね。

こちら作品は半年以上の時間をかけて、じっくりと制作されました。複雑に入り組んだ建物の形や窓の配置、色彩豊かな外壁など、見れば見るほど情報量の多いモチーフですが、一つひとつ丁寧に積み重ねながら完成へと導かれています。
フンデルトヴァッサー建築の魅力は、まるでパズルを組み合わせたような自由な造形にあります。本作でも、青や黄色、赤、紫といった鮮やかな色彩が建物全体に散りばめられ、眺めているだけで楽しい気持ちになりますね。これほどカラフルな建築でありながらも、そこに子供っぽい印象はありません。その理由の一つとして、空の表現があるのでしょう。建物の背後には鈍色の曇り空が広がり、鮮やかな色彩との対比を生み出しています。この落ち着いた空によって画面全体が引き締まり、どこか都会的で洗練された、大人の雰囲気を感じさせます。また、周囲の車や街並みの色彩をあえて抑えて描くことで、主役である建築が自然と目に飛び込んでくるよう、画面全体がしっかり設計されています。人工物が密集する中で点在する木々の緑も印象的ですね。無機質な建築群の中に柔らかな呼吸を与え、フンデルトヴァッサーが大切にした「自然との共生」という思想が感じられます。
また、画面全体に油絵具ならではの絵の具の厚みのむらや筆跡が随所に残されており、近くで見ると絵具の重なりやタッチのリズムを楽しむことができます。建物の複雑な形に目を奪われがちですが、本作からは制作に向き合う誠実な姿勢が伝わってきます。

少し話が逸れますが、私の好きなアメリカの画家に、ウェイン・ティーボーという人がいます。今回の作品を拝見した際に、ティーボーが描く風景画を連想しました。道路や建物を平面的・図形的にとらえた作風がこれまた不思議で面白いのですが、矢作さんの作品の色彩センスを見ていると、正しいデッサンとは違う、ある種抽象画にも寄った表現も合うのではないか?と思いました。

妖精のように

室橋 油彩

大竹です。今回ご紹介させていただくのは、室橋さんの油彩作品です。

室橋さんのお孫さんシリーズも、前々回のルービックキューブ前回の七五三に続き、今回はバレリーナ!お孫さんがたくさんいらっしゃると、描く題材には事欠きませんね。こうして作品を並べていくと、それぞれの成長や個性が感じられ、まるで一冊の家族アルバムを見ているような楽しさがあります。

今回描かれたのは、舞台で美しくポーズを決める小さなバレリーナの姿です。バレエは指先から爪先まで、全身を使って感情や物語を表現する芸術です。本作からも、一瞬の動きを切り取ったような緊張感と、その中にある静かな美しさが伝わってきます。頭の先からつま先まで意識が行き届いた姿勢は凛としており、小さな身体の中に秘めた集中力を感じさせますね。その表情にはまだ幼さが残りながらも、舞台に立つ者としての真剣さが宿っています。愛らしさと凛々しさ、その両方が同居しているからこそ、観客の心を惹きつけるのでしょう。
また、特に目を引くのはチュチュの美しい色彩です。白を基調としながらも、水色や紫、ピンクが溶け込んでおり、柔らかく重なる布に包まれた姿はまるで妖精のようです。油絵具は何度も色を重ねながら微妙な変化を作り出せる画材ですが、その特性が存分に活かされています。肌の色についても何度も試行錯誤を重ねられたそうで、その積み重ねが自然な温かみにつながっているのでしょう。
背景は一見すると壁と床だけのシンプルな構成ですが、よく見ると様々な色が重ねられています。暗い色の中に紫や青、赤みのある色が見え隠れし、単なる黒ではない深みを生み出していますね。暗い部分を豊かに描くことによって、明るい部分も引き立ち、より美しく見えるようになります。背景に丁寧な色づくりが施されているからこそ、舞台上のバレリーナが明るく浮かび上がり、広いステージの空気や奥行きまで感じられるのです。

単に思い出の姿を写し取るだけならば、写真が一枚あれば事足ります。しかしその思い出を、自分の手でキャンバス上へ再構築することで、制作者の思いや願いといった目に見えないものが込められ絵画となるのでしょう。成長という、二度と戻らない一瞬を大切に残した、愛情あふれる一枚です。

トリミングの魅力

御影 油彩

サトルです!今回は御影さんの油絵をご紹介します。
大胆なタッチで絵の具を厚く盛り上げるように描かれていて、一見抽象絵画に思えますが、具象絵画です。まず、何を描いているのか想像してみてください。なんとなくいろんなものが見えてくる気がしませんか?こうして作品を見ながら想像を膨らませるのも、絵画鑑賞の楽しみ方だと思います。

では、一体何を描いたのか。答えは「木星の地表」です。答えを聞くと、一気にリアルに見えて来たでしょう。木星の表面に渦巻いたガスが上手く捉えられています。普通星を描くとしたら全体を捉え、分かりやすい様に描きますよね。しかし御影さんはあえてズームアップし、何を描いているのか分かりにくくする事で、謎掛け的な面白さと、抽象絵画の様な魅力、さらには答えを聞いた時に感じるリアリティを共存させました。
こちらの作品がギャラリーに展示してある姿を想像すると、「何を描いているんだろう?」と気になった人たちが目の前で立ち止まって鑑賞し、キャプションを見て何を描いたかに気づき驚愕する姿が目に浮かびます。景色の切り取り方一つでここまで魅力的な作品になるのですね。

絵の具の扱い方も遊び心があって魅力的。筆跡を上手く使った表現や、ナイフで盛り上げた迫力のあるタッチなど、このモチーフだからこそ出来る技法が幅広く使い分けられていて、どうやって描いてあるのだろう?と隅々まで見てしまいます。キャンバスの上で絵具が混ざっていたり、複雑に色彩が入り組んでいて、細かい所まで単調にならないように描かれていますね。

美術館に訪れた人が一枚の作品を見る平均の時間は、約10〜20秒程度と言われています。良い作品は鑑賞者の足を止め、長い時間鑑賞させることが出来る作品だと考えると、御影さんの作品は、まさに長時間鑑賞者を引きつける事が出来る作品ではないでしょうか。見れば見るほど深みが出てくる、面白さと魅力の詰まった作品だと思います。