移り行く景色

豊嶋 透明水彩

1月は海外に留学している兄の所に遊びに行っていたせいでお休み頂いており、お久し振りとなりました大志です。
今回は豊嶋さんの透明水彩による風景画をご紹介します。水辺に映り込む木々と、色づいた季節の移ろいを描いた作品です。

画面いっぱいに広がる木々の鮮やかな色彩が印象的で、赤やオレンジ、緑といった複数の色が重なり合いながら、豊かな季節感を生み出しています。水面にはその風景が反射するように描かれ、現実の景色と、その揺らぎを含んだもうひとつの世界が同時に存在しているような、不思議な奥行きを感じさせます。

透明水彩ならではのにじみや重なりを生かしながら、色を大胆に置きつつも全体の調和が崩れていない点に、豊嶋さんの色彩感覚の確かさが伺えます。特に水面部分では、形を細かく描き込みすぎず、彩度を落とした暗い色と水平にひく荒い筆致によって反射の印象を表現しており、水のゆったりと流れるさまや静けさが自然に伝わってきますね。

水彩を始めたばかりの豊嶋さんは、最初に静物画を制作していました。モチーフを一つひとつ丁寧に捉える作品と、こうした風景画とではアプローチは異なりますが、色の選び方や画面全体のバランス感覚といった点では共通する部分も多く見られます。それぞれの制作で培われた感覚を行き来しながら、表現の幅を少しずつ広げていってください。
そうしている内に、自分がどんな色や構図・モチーフに惹かれているも見えてくると思います。いつも新しい発見を楽しみながら制作していらっしゃる豊嶋さん。そんな姿勢も作品の魅力となっていくでしょう。

遊び場は城跡

成松 透明水彩

大竹です。今回ご紹介させていただくのは、成松さんの水彩作品です。
煉瓦造りの城壁の跡が残る風景はドイツのものだそうです。まるでロード・オブ・ザ・リングやゼルダの世界のようですね。

緑の地面には点描のように絵の具を置いていき、生い茂る草の質感を表現しています。柔らかな色合いが作品全体の優しい空気感を作り出しているのでしょう。空や雲はほぼ単色で塗られていますが、水彩の滲みを活かした風合いが他の描写を支えています。透明水彩は下の色が透けて影響してくるのが特徴で、やりすぎると濁ってしまうため、扱いの難しい画材でもあります。絵の具を濃く重ねる部分もあれば、薄くさらっと仕上げている部分もあり、そのメリハリも絵の中で効果的に働いていますね。

絵の中からは、ボール遊びをする子供たちの楽しげな声が聞こえてくるようです。広い草原を思いきり駆け回り、時折足を止めては何かを話し、また走り出す——きっとそんな何気ない一瞬が、軽やかな筆致で切り取られているのでしょう。子どもが見れば最近遊んだ記憶が呼び起こされ、大人が見れば子供を見守る微笑ましい気持ちになるように、見る人は自分の記憶や体験を重ね、絵の中に入り込むことができるのではないでしょうか。

歴史ある遺構の前で、無邪気に遊ぶ子供たちの姿は、この場所が過去のものであると同時に、今を生きる場所でもあることを教えてくれるようです。かつての栄光の残滓である城跡と、まだ幼く未来のある子供との対比が味わい深い一枚です。

見え方のリアリティ

黒木 透明水彩

ナツメです。本日は大人クラスより、黒木さんの作品を二点ご紹介します!

一枚目は牧場にいるアルパカを描いた作品です。横顔を捉えた構図で、どこか眠たげにも感じられる、落ち着いた表情が印象に残ります。毛量が多いことで知られるアルパカですが、特に顔まわりの毛のボリュームが丁寧に捉えられており質感が伝わってきます。

光の表現も印象的で、顔などの白い部分にもためらわずに影を入れることで立体感だけでなく朝のやわらかな日差しや澄んだ空気感まで感じられます。明暗を強いコントラストではなく、あくまで穏やかな明暗でまとめられているため、牧場の静かな時間がそのまま絵の中に留められているようです。

そして二枚目は、草むらの中に咲く一輪の花を描いた作品です。周囲を占める緑の中に淡いピンク色が置かれ、自然と視線が中心へと導かれます。花びらの輪郭や色の移り変わりが丁寧に捉えられており、触れたときの厚みに加えて水分を含んだ手触りまで想像させます。

葉の表現は比較的シンプルですが、単調にならないよう水彩特有のにじみや色の重なりが活かされています。そのおかげで、ざらりとした葉の質感や草むらの広がりも自然に感じられます。

アルパカの顔や花といった主役部分がよく観察され、はっきりと描かれている一方で、その周囲は描き込みすぎず、空気感を大切にしながら色が置かれています。その対比によって遠近感が生まれるだけでなく、視線が自然と一点に集まり、周囲はやわらかく捉えられるという人の見え方に近い感覚が表現されているように感じました。対象をよく見つめ、その場の空気を大切にしていることが伝わってくる作品たちです。

歩いた景色を閉じ込めて

佐藤K 透明水彩・ペン

マユカです!今回は佐藤さんの作品をご紹介します。
旅行誌や、ファッション誌の挿絵のような、空気感を感じる色選びと、筆運びがクセになるようなこちらの2枚。ご自身で行かれたヨーロッパの景色を描かれています。どちらも気温や風が伝わり、佐藤さんが歩いた町々を追って体験しているような感覚になれますね。
左の作品は、人通りの多さや止まっている車の多さを見るに、お店の多い観光地なのでしょう。一点透視図で描かれた建物群はパースがしっかりと取られているため、奥へと視線が吸い込まれていきます。中心に据えられた恰幅のいい男性は観光客でしょうか、一人で旅をしているのかもしれません。アーチを潜った先には何があるのか、どんな店が並んでいるのか…一枚の絵から、ストーリーをいくつも考えることができそうなほど、見れば見るほど味を感じる描き込み量が魅力的です。

右の作品は一枚目と打って変わって、静かで落ち着いた、建物がメインに置かれています。水面に建物の光が反射し、煌めく波の表現がとても美しく、ライトアップされた建物の黄色をそのまま乗せるわけではなく、少し青を混ぜた緑や灰色を重ね、夜の水の暗さを保ちつつ、強い黄色を落ち着かせてなじませています。影になっている建物の右側も、ただ暗くするだけではなく、透明水彩の滲みとペンで最小限描かれた屋根で輪郭を浮き立たせ、奥へ行くほど黄色の割合を減らすことで闇へ消えていくような自然な雰囲気を表現されています。私はこの作品から、対岸にある水辺のレストランからこの風景を見ている…という情景を想像しました。贅沢な時間を過ごしているような景色ですね。

旅行などに行くと、感激した景色を写真に残しがちですが、現地でスケッチを残したり、その日のうちに歩いてきた景色を小さいノートなどに書き残しておくと、旅がさらに思い出深いものになるかもしれません。

思い出をかたちに

佐々木 透明水彩

ナツメです。本日は日曜大人クラスより、佐々木さんの作品をご紹介します!佐々木さんいつも透明水彩でお子さんの姿を描かれています。今回の二枚は、外出先での時間をもとに制作された作品です。

一枚目は展覧会に出品された作品なので、覚えている方も多いのではないでしょうか?ベンチに腰掛ける二人の姿が描かれており、画面全体に穏やかな空気が流れています。特に難しいのが背景の木洩れ日の表現です。描き方によっては斑点状になりやすいモチーフですが、明暗の幅を丁寧に整理することで光の差し方やあたたかさが自然に伝わってきます。人物と背景が無理なく馴染み、屋外のやわらかな空気感まで感じられる一枚です。アイスを食べているお子さんの仕草も微笑ましいですね。

そして二枚目は、海辺の岩場を歩く息子さんの姿を描いた作品です。広い空と海を背景にしながら、足元の岩や人物をどう見せるかが難しい場面ですが、描き込みの量に差をつけたり、人物や岩などの手前にあるものの暗さを強調したりすることで奥行きのある画面にまとめられています。岩肌の硬さと空や海の質感が描き分けられ、場所の特徴がはっきりと伝わってきます。また、人物の立ち位置や視線の高さも的確で、実際にその場に立っているような感覚を覚えます。透明水彩ならではの軽やかさが海辺の開放的な空気を支えています。

二点を通して感じるのは、旅という特別な時間を絵として丁寧にまとめていく佐々木さんの姿勢です。その場所で感じた空気や思い出が、過度な説明をせずとも自然に伝わってきます。次はどんな場面が描かれるのか、今後の作品も楽しみです。

光のコントラストが生む空気

真愛 透明水彩

今年初ブログのマユカです!今回は昨日の坂本さんに続き、透明水彩で描かれた真愛さん(ご主人様と一緒に通われていらっしゃるので、下の名前で呼ばせて頂きます)の作品をご紹介していきます。
真愛さんはいつも人物画を中心に描かれています。今回の作品も人物画ですが、難しいパースの効いた構図や、ダイナミックな体勢の構図も積極的に挑戦されていて、どちらも人物の性格や仕草の表情をよく表現されていますね。

左の絵は上から見下ろした構図。子どもたちの夏休みを見守る保護者の視点でしょうか?人物だけではなく周りに配置されている小物などによって情景説明や演出が加わり、画面が立体的で空間をよく感じられるような仕上がりになっています。人物を邪魔しないように、でも手抜きには見えないように、丁寧に書かれている建造物や植物が、描かれている世界に説得力を持たせ、夏の暑さを感じる少しじっとりとした空気が伝わってくるようです。1色だけでなく、にじみでさまざまな色幅を使っているからこそ、光の豊かさを感じられる仕上がりになっていますね。

右の絵は下からのアオリ構図というかなり複雑な構図も破綻なく書き上げられているところを見るに、人体に対して深い理解があることが伺えます。これだけのデッサン力を培うために何枚スケッチを重ねたのでしょう?しなやかな手足の表現は特に目を奪われてしまいます。左の絵とはがらりと変わった、冬の乾いた空気が感じられます。
水彩絵の具は特性上淡くなってしまうところもあるのですが、真愛さんは要所を押さえて強い色を使われているため、画面に強いメリハリが生まれています。これは意識していないとなかなか難しいので、見やすくなるよう工夫を施されたことが分かります。

はっきりしたライティングで生まれるコントラストの強さは、メインのモデルを見ている人に周囲まで深く印象付けるとともに、表現の幅をより広げて見せてくれます。皆さんも画面に何か欲しいな、物足りないなと感じた時は、ぜひ思い切ったコントラストをつけてみてください。真愛さんの作品のように、かっこよく仕上がっちゃうかもしれませんよ!

風景のまとめ方

坂本 透明水彩

お正月気分でだらけていたらいつの間にか年始から半月経っていました、ナツメです。
本日は月曜大人クラスより坂本さんの作品をご紹介します!モン・サン・ミシェルと、その周辺の草原で放牧されている羊たちを水彩で描かれました。
城塞都市の傍らでのびのびと過ごす羊たちの姿と、晴れやかな空が相まって、見ているうちに心がゆっくりと落ち着いていくようなのどかな雰囲気が印象的な一枚です。

画面の手前にはこちらを向いて立つ一匹の羊が描かれています。姿勢や向きの関係もかたまず最初に目がいくのはこの羊ですが、「主役」として強く目を引く存在というよりも、絵の中に視線を導くためのきっかけのような役割を担っています。いったん羊に目が留まったあと、そのまま草原をたどって奥の風景へと、自然に視線が流れていく動線が作られています。

もしこの羊だけが強く強調された描かれ方をしていたら、見る人の意識はそこで止まってしまったかもしれません。羊がしっかりと存在感を持ちながらも、周囲の風景と同じ空気の中に収まっているバランスのおかげで、一点を眺めるというよりも画面全体をゆっくり味わうような見方が生まれています。

奥に描かれたモン・サン・ミシェルも、細部を描き込みすぎず、大まかな形と建物の陰影に描写を留めているため、象徴的な建築でありながらこの草原の先に広がる風景の一部として自然に存在しています。

風景を描くときは、はっきりとした主役を立ててドラマ性を強調する描き方もあれば、こうして視線のきっかけをいくつか用意し、複数の要素が同じ時間と空気を共有しているように見せる描き方もあります。特別な出来事ではなく、穏やかな日常のひとコマを切り取ったような感覚が伝わってきます。

絵作りは、何かを足すことだけでなく何をどこまで抑えるか、どう共存させるかの判断も含めて難しいものですが、その積み重ねが見る人の心に残る風景をつくっているのだと改めて感じさせてくれる一枚です。

細部に宿る熱意

川上 透明水彩

マユカです!今回は川上さんの作品をご紹介します。展覧会で頂いたお手紙をチラッと拝見しましたが、あまりの細かさ・リアルさに、すぐに場所を特定されている方が多かったようですね!私も目が釘付けになってしまいました!天井の梁や奥の窓、置いてある音響や旗に至るまで描き込まれている辺りから、とても時間をかけてじっくり丁寧に観察して描かれたのだということがわかります。もっとよく見てみれば、応援している人が客席にいるのか色とりどりの旗を持っている様子も確認できますね。画像を拡大しないとわからないほどの描き込みから、とてつもない熱意を感じました。

色を塗る以前から、ペンで全体を時間を掛けて書き込んでおられましたが、球場のグラウンドにはあえてペンをほとんどいれず、絵の具の重なりや色の差、画用紙の質感をうまく活かして芝生を表現されています。右側から光が来ていることを感じさせる色の抜き方も素晴らしいです。

今回モチーフに選ばれたエスコンフィールドHOKKAIDO(通称エスコン)は、北海道にある開閉式屋根付き野球場。パーク内に宿泊施設が建設されており、ホテルの客室から野球観戦ができる施設として有名です。私はあまり野球に詳しくないものの、こんなにかっこいい球場だったら行ってみたいと思わせるような建築デザインです。モチーフ選びのセンスが良いなぁと思うと共に、これだけ細かいものに挑戦してみようとの決意に情熱を感じます。

途中で画材を変えると?

松尾k デッサン・透明水彩

お久し振りです、ひとみです。本日は松尾さんの鉛筆デッサンと、透明水彩の作品2枚を紹介をしたいと思います。2枚とは言いましたが、同じ作品です。実は3ヶ月ほど前に鉛筆デッサンとして仕上げていたのですが、生徒作品展に出品するために着彩をしたビフォーアフターになります。

画面中央に描かれた、堂々たる姿で佇む坂本龍馬の銅像。
左のデッサンは描写の粗密(擦筆やティッシュで擦り、密度を上げたりぼやかしています)により、奥の町々、手前に見切れた木々、一番手前に来る銅像という3つの構成を描き分け、遠近感と心地の良いリズムのある画面が作り出されています。これで完成にするというのも大いにうなずける完成度だと思います。

右の水彩画は、光の当たる部分には淡い黄色が差し込まれるのに対し、影の部分には冷たく感じる青紫色が用いられることで、補色の関係を巧みに利用し、銅像へ触れた時の温度差まで表現できています。
加えてその色使いは、龍馬の熱い志、武士としての厳格さまで感じさせ、画面全体の力強さを一層際立たせているのです。
一転して背景には澄み切った青空と町並みが広がり、透明水彩ならではの軽やかな青色から白色へのグラデーションが印象的で、さわやかですね。その柔らかな色の移ろいとはっきりとした銅像の色合いで対比が生まれ、より主役へと目を引く導線となっています。

しかし一度『鉛筆デッサン』として完成とするほど描き込んだ絵というのは、かなり鉛筆の鉛が乗っています。着彩のし始めには絵の具を弾いてしまい、なかなか定着せず苦労されました。通常の透明水彩の下描きは、ここまではっきりとした明暗や立体感はつけないので、デッサンをベースとした絵に着彩をしたからこそ生まれた、独特の魅力が見どころと言えるでしょう。

息づく山

菊地 透明水彩

大竹です。今回ご紹介させていただくのは、菊地さんの水彩画作品です。
モチーフは四国・吉野川の山桜。山肌を覆うように咲く花々の香りが、画面からふわりと漂ってくるようです。

手前・中間・奥と、それぞれに距離の異なる山々が丁寧に描き分けられ、空気の層までも感じさせます。淡くにじむ桜の色合いと、重なり合う緑のグラデーションは、春のやわらかな光に包まれた山の息づかいを伝えてくれます。
陽光を受けて輝く草花は、まるで山そのものが光を放っているかのよう。透明水彩ならではの優しい発色と透けるような色の重なりが、こうした穏やかな風景によく馴染み、柔らかい時間の流れを感じさせます。
そして何より、ひと筆ひと筆を誠実に重ねていくその仕事ぶりに、菊地さんの制作姿勢が表れていますね。普段から同じ写真を何枚も繰り返し描き、納得のいくまで粘り強く取り組まれており、そうした積み重ねが、静けさの中にも確かな生命力を宿した画面を生み出しています。

こちらは菊地さんにゆかりのある風景なのでしょうか?穏やかな情景の中に、静かな郷愁がにじむようにも思います。こちらの作品は展覧会にて展示予定です。ぜひ会場で、実物の繊細な絵の具の重なりと空気感をご覧ください。