生活の一部のように

璃子 中3 油彩

大竹です。今回ご紹介させて頂くのは、璃子の油彩作品です。彼女は昨年の生徒作品展で人気投票1位を獲得し、70名もの方から感想文が寄せられました。(その作品はこちらをご覧ください。)今回ご紹介するのは、その次に取り組んだ油彩作品で、完成までにおよそ1年を要しています。

もとにしたのは、どこかノスタルジーを感じさせる古い写真。昼食の支度の途中でしょうか、窓から差し込む光に照らされた食材たちが、まるで出番を待っているかのように静かに佇んでいます。年月を感じさせる机や壁、使い込まれた器のひとつひとつからは、そこに暮らす人々の生活や体温のようなものが伝わってきますね。
光と影、その場に存在するすべてを丁寧に拾い上げ、画面の隅々まで描き切っています。卵ひとつをとっても、ずぅっと眺めていられそうです。それだけの密度が1枚のキャンバスの中にあります。しかしそこには、いわゆる“気合”や“勢い”といったものは感じられません(決して悪い意味ではなく)。むしろ、料理という日々の営みの一場面を淡々と積み重ねるように、ごく自然な呼吸で描かれているように感じられます。作者の制作姿勢の表れですね。

油彩において暗部、特に黒の扱いは非常に難しく、使い方によっては主張が強くなりすぎてしまいます。しかし適切に用いられた暗さは、光を引き立てるだけでなく、暗闇そのものにも豊かな表情を生み出します。本作では、暗い部分の中に様々な色が潜み、画面に奥行きと深みを与えています。静かな画面でありながら、見れば見るほど色の重なりや空気の層が感じられる、非常に豊かな表現です。

日々新しい情報に溢れ、移り変わりの早い現代において、一つのものに1年という時間をかけることは決して簡単なことではありません。ましてや、多くのことに追われながら過ごす中学生にとって、その時間の重みはなおさら大きいものでしょう。たった一つの画面と向き合い続け、完成へと辿り着いた時間そのものが、観るものの心を掴んで絵の前に引き留めているのです。

次の作品紹介もきっと一年後になるのでしょう。時間がたっぷりとある大人の皆様は、その日をどうぞお楽しみに!