春の気配

大坪 岩絵具・和紙

ナツメです。本日は月曜大人クラスより、大坪さんの日本画をご紹介します。昨年6月から3ヶ月ほど日本画集中月間を設けておりましたが、お仕事の都合の休会なども重なりようやく日の目を見たものです。長い道のりでした!

枝を横に伸ばしながら、房状の花を垂らす藤の花が描かれています。いくつもの花が重なるように塊になって垂れているイメージが強いのですが、このように1、2房のみが描かれるとその優雅な佇まいに改めて気付かされます。

実はこの作品は背景にはほとんど彩色が施されておらず、紙の地がそのまま生かされています。鳥の子紙のやや黄色みを帯びた地色が画面全体の基調となり、花や葉の色の変化をより引き立てています。背景に彩色がないぶん最初にとらえたシルエットや線も埋もれることなく、すっきりと美しく見えるのが印象的で、花や葉が一枚一枚丁寧に描かれていることもいっそう際立っています。

花には紫を基調としながら、花房ごとにわずかな色の差がつけられています。いわゆる「藤色」の淡く青みを帯びた紫から、深みのある紫、やわらかな明るい紫へと移ろう色合いがとても魅力的です。陰影を強くつけるのではなく、色の差によって形をとらえている点にも、日本画らしい品のある表現が感じられます。

葉の描写も丁寧です。緑一色ではなく黄味を含んだ色が重ねられ、花と葉の描き込みの密度が近いため、どちらかが強く主張しすぎることなく画面全体に自然な一体感が生まれています。

藤は古くから日本絵画や工芸の中で親しまれてきたモチーフで、しなやかさや優美、そして季節の移ろいを象徴する花として描かれてきました。派手な豪華さよりも、垂れ下がる姿の静けさや、風に揺れる一瞬の表情に美しさを見出す点は、日本画ならではの感覚とも言えます。和の落ち着きを感じさせる一枚になりました。