夏の記憶をとどめる

山本 岩絵具/和紙・パネル

大竹です。今回ご紹介するのは、山本さんによる日本画の作品です。

ひまわりといえば、太陽に向かって真っ直ぐ咲く姿が象徴的ですが、本作では盛りを過ぎているのか、うなだれながらもなお鮮やかな黄色を放つ姿が表現されています。花びらの一枚一枚に残る夏の香りは、過ぎ去ろうとする季節を惜しむかのようで、観る者にやがて地に落ちていく未来の時間までも想像させます。少ししおれたひまわりを選び取った眼差しに、作者の感性の豊かさが表れていますね。花の美しさは、決して瑞々しい瞬間だけに宿るものではなく、弱さや衰えの中にも情緒や美が存在することを伝えてくれるかのようです。夏の終わりに漂うもの哀しさは、どこか懐かしい気持ちを呼び起こし、心を静かに震わせます。私はこちらの作品を拝見した時、井上陽水の少年時代が頭の中を流れていきました。少し切ない気持ちになってくるのは、まだひまわりたちが眩しいほどの黄色を有しているからなのでしょうか。

背景の青も印象的で、夏の強い日差しの熱感というより、湿度を帯びた空気を思わせるような柔らかい青で描かれており、岩絵の具の持つ質感が巧みに活かされています。この青があることで、ひまわりの黄色がいっそう鮮やかに浮かび上がり、画面全体に静かな深みを添えています。日本画ならではの重なりと透明感が、季節の移ろいを鮮やかに浮かび上がらせ、鑑賞者の心に余韻を残す味わい深い作品です。