日本画特有のフラットな背景


菊地  岩絵具・和紙・パネル

サトルです!ワークショップや小原先生の展示など、イベント情報が続いていますが、今日は菊地さんの日本画をご紹介します。

黄土で塗られた背景と、緻密に描かれた紫陽花の対比が効いた日本画らしさを感じる作品です。無地の背景に物が描いているという構図も日本画らしいのですが、この作品を見た時に感じる、なんとも言えない懐かしさの様な感覚こそが日本画らしさなのです。

優しい雰囲気でありながら、近くで見るとその力強い描写に驚かされます。花よりも大きく描かれた葉は葉脈だけでなく表面の微妙な凹凸や色の違いまで細かく再現されており、紫陽花は花弁一つ一つのピンクから白へのグラデーション、花弁同士の複雑な重なりを誤魔化すことなくしっかりと描き切っています。

背景をフラットに塗ると難しくなるのが、モチーフが背景に馴染まなくてシールの様になってしまいがちな所です。特に、リアルな描写がしてあると更に背景とのバランスを取るのが難しくなりますが、菊地さんは背景とぶつかる紫陽花の輪郭部分を鈍い色味で描き、葉の先端や茎の輪郭などは背景に近い明るい黄色で溶け込ませる事でバランスをとりました。また、背景を完全にフラットな塗りにするのではなく、パステルなども使い一色の中に豊かな質感を生み出したおかげで紫陽花との相性が良くなったのでしょう。

物をしっかり描く事と画面全体のバランスを取る事を両立する難しさ。この作品からは菊池さんの美しい完成度と高い技術を感じました。紫陽花の季節は初夏。季節に合わせて絵を飾ることは、生活に風情を添える日本人ならではの美しい習慣ではありますが、この絵を見ていると今ほど暑くなかった頃を思い出し、きっと冬になったら夏を思い出して暖かい気持ちになるでしょう。一般的な常識にとらわれず、一年中部屋に飾っていたくなる素敵な作品です。