
原 岩絵具/和紙・パネル
ナツメです。続々と大人クラスの日本画も仕上がって来ておりますが、その中から本日は原さんの作品をご紹介します!
春のやわらかな光に包まれた桜の木を描かれました。画面を見つめていると、そこに風が吹き、淡い花びらがふわりと舞い上がりそうな気さえしてきます。白、桃色、薄紫、柔らかな黄緑など、淡く控えめな色彩が幾層にも重ねられ、光そのものが絵の中に溶け込んでいるかのようです。まるで夢の中の風景のような、幻想的な空気をまとった一枚になりました。
まず水干絵具で全体の色調を整え、その上から岩絵具を重ねていくという工程で描かれています。水干は絵具として扱いやすく、大きな面での色の設計に適しているのに対し、岩絵具は粒子が粗く、光を受けるとキラキラと反射する独特の存在感を持っています。そのため、色をただ塗るのではなく、「どう見せたいか」によって絵具を選び、重ねる順序を考える必要があります。制作中は色の選び方や塗り重ねの順序に悩む場面も多く、一つの色を塗っては色が変わるまで乾かして離れて眺め、また重ねる……という根気のいる作業の繰り返しでしたが、細やかな観察と試行錯誤を積み重ねた結果、非常に深みのある色合いが生まれました。
花の部分にはほんのりと岩絵具が加えられ、画面全体に春の陽射しが降り注ぐような明るさときらめきが感じられます。また、幹や枝の表現は最小限にとどめつつも、筆の動きには芯があり、木としての構造を自然に感じ取れるようなバランスがお見事。花びらや葉の形を明確に描きすぎず、あえて余白やにじみ、かすれなどを活かすことで、観る人の想像を誘うような柔らかな印象を与えることができました。
日常の中でふと目にする季節の風景も、画材や手法を変えて向き合うことでこんなにも繊細で新鮮な表情を見せてくれるのだと改めて気付かされます。ひとつひとつの色を丁寧に重ねる中で、見慣れた桜の木が、少し特別な景色として立ち上がってきたようでした。