愛を持って描く

野上 ペン

聡です!今回は野上さんのペン画をご紹介いたします! 今回の作品で野上さんが描かれたのは、サイレントヒルというビデオゲームで登場するキャラクターです。とっっっても怖いホラーゲームなので苦手な方は調べない事をお勧めします、、、、。キャラクターの詳細情報もゾッとする内容なので、ここには書かないでおきますね。ただ、非常に有名な名作ゲームで、25年以上シリーズ作品が作られているロングセラーゲームです。ホラーゲームが好きな人は必ずと言っていいほどプレイ経験があるでしょう。

見ての通り、三角形の金属の被り物をした、巨大な鉈を持った大男を超絶緻密なタッチで描かれています。三角頭の金属や衣服の質感、特に巨大なナタの鋭利な質感が、ペンで描いたとは思えない、まるで白黒写真の様に見えるほどのリアリティを持っています。形の際を鋭く描き切りながらも、内側のトーンの部分も寸分の妥協無く仕上げられていますね。野上さんのこのキャラクターへの愛を感じます。

ペン画を描く上で一番難しいのは、間違い無くグレートーンの部分。ペンのインクは全部黒ですから、グレーに塗ることは出来ません。野上さんはこの綺麗なグレートーンをどう描いていたかというと、なんと0.1ミリ以下のかなり細いペンを使い、長時間かけて極細のハッチングを重ねることで表現しました。果たして何本の線が積み重ねられているのでしょうか。恐ろしい集中力ですね、、、、、。何本の線画重ねられているのか想像すると、宇宙の広さが何キロメートルなのか考えた時と同じ感覚になって来ます、、、、。

丁寧な仕事をひたすら積み上げ、最終的に全体の雰囲気まで合わせる。口で言うのは簡単ですが、中々出来る事ではありません。作品を描く前にどんな作品にしようかと計画しますが、その計画通りに進んでいたとしても、なんと無くここら辺描くのめんどくさいなぁ、と思って適当な作業が入ってしまう。皆さんもこの様な経験があると思います。最初から最後まで妥協無く描いた野上さんには尊敬の念を抱きます。

野上さんはゲームがお好きで、今までもゲームに登場するキャラクターをたくさんペン画で描かれて来ました。僕も実はかなりのゲームオタクで、野上さんとは好きなゲームが似ていることもあって絵の話より、ついついゲームの話題で盛り上がってしまいます。大学の友達で、野上さんと同じ様にゲームが好きで、キャラクターを模写していたら上手くなって美大に来た、なんて人が結構います。好きなものを描くって、とても大事な事ですよね。好きじゃ無いと本気になれないし、続けられませんから。野上さんを見ていると、そんな初心を思い出せます。

妖精のように

室橋 油彩

大竹です。今回ご紹介させていただくのは、室橋さんの油彩作品です。

室橋さんのお孫さんシリーズも、前々回のルービックキューブ前回の七五三に続き、今回はバレリーナ!お孫さんがたくさんいらっしゃると、描く題材には事欠きませんね。こうして作品を並べていくと、それぞれの成長や個性が感じられ、まるで一冊の家族アルバムを見ているような楽しさがあります。

今回描かれたのは、舞台で美しくポーズを決める小さなバレリーナの姿です。バレエは指先から爪先まで、全身を使って感情や物語を表現する芸術です。本作からも、一瞬の動きを切り取ったような緊張感と、その中にある静かな美しさが伝わってきます。頭の先からつま先まで意識が行き届いた姿勢は凛としており、小さな身体の中に秘めた集中力を感じさせますね。その表情にはまだ幼さが残りながらも、舞台に立つ者としての真剣さが宿っています。愛らしさと凛々しさ、その両方が同居しているからこそ、観客の心を惹きつけるのでしょう。
また、特に目を引くのはチュチュの美しい色彩です。白を基調としながらも、水色や紫、ピンクが溶け込んでおり、柔らかく重なる布に包まれた姿はまるで妖精のようです。油絵具は何度も色を重ねながら微妙な変化を作り出せる画材ですが、その特性が存分に活かされています。肌の色についても何度も試行錯誤を重ねられたそうで、その積み重ねが自然な温かみにつながっているのでしょう。
背景は一見すると壁と床だけのシンプルな構成ですが、よく見ると様々な色が重ねられています。暗い色の中に紫や青、赤みのある色が見え隠れし、単なる黒ではない深みを生み出していますね。暗い部分を豊かに描くことによって、明るい部分も引き立ち、より美しく見えるようになります。背景に丁寧な色づくりが施されているからこそ、舞台上のバレリーナが明るく浮かび上がり、広いステージの空気や奥行きまで感じられるのです。

単に思い出の姿を写し取るだけならば、写真が一枚あれば事足ります。しかしその思い出を、自分の手でキャンバス上へ再構築することで、制作者の思いや願いといった目に見えないものが込められ絵画となるのでしょう。成長という、二度と戻らない一瞬を大切に残した、愛情あふれる一枚です。

街の二面性を描いて

貫志 中2 油彩

サヤカです!今回が学生クラスの貫志の作品をご紹介します。

ニューヨークで最も賑わい、様々な文化が行き交う「世界の交差点」とも呼ばれるタイムズスクエアの景色です。ニューヨークと聞くと、エンターテイメントに溢れたエネルギッシュな街というイメーシが強いですが、実はニューヨークは「雨の街」とも呼ばれるほど1年を通して曇りや雨の日が多いそうです。貫志が切り取ったのは、タイムズスクエアの眩しく華やかなネオンが、雨にぬれた街に反射する幻想的な場面です。

道は車と人でいっぱい、ネオンの広告、ブロードウェイの看板などなど画面いっぱいの情報に加えて雨の反射もあり、かなり複雑です。その複雑な風景の中から必要な情報を選択し、タイムズスクエアらしい賑わいや雰囲気を保ちながら描ききった貫志の根気強さと表現力は素晴らしいですね。

また、雨粒や水たまりをかかずに天気や湿度を表現している点にも注目したいです。濡れた路面に映り込む光や、深い青で描かれた空の色によって、雨の日のしっとりとした空気が自然に伝わってきます。街並みを描く際には、建物のバランスや遠近感、奥行きなどたくさんの技術的な難所がありますが、その街の空気感を表現することはさらに難しいです。ニューヨークの街並みといっても、きらびやかな憧れの街を描くのか、はたまた都会の冷たさを描くのか、といった点で大きく印象が変わります。貫志の作品には、そんなニューヨークが持つ二つの表情が描かれ、華やかさの中に落ち着いた情緒があります。雨に濡れた街から醸し出される静けさと、タイムズスクエアの活気が調和した魅力的な作品になりました。

情報量の多い風景を描きながら、街の賑わいだけでなく、雨の日ならではの静けさまで表現されている点が印象的でした!世界中に旅行に行きたいと話していた貫志が、いろんな景色を見た時思い出す一枚になったのではないでしょうか。

動物の生態・地球の神秘

佐藤K 透明水彩

大志です!今日は台風が東京に直撃しましたが、きちんと朝から学校に行き、びちょびちょになりながらも無事学校に辿り着けました。こんな日は休むべきだったかな?

気を取り直して、今回は佐藤さんの水彩画をご紹介します!こちらの3枚は、どれもアフリカの風景をモチーフに描かれた作品です。同じテーマでありながら、それぞれ異なる色彩や光の表現が用いられており、まるで時間や季節が移り変わっていく様子を見ているように感じられました。

1枚目(一番上)の作品では、夕日に照らされたサバンナを背景に、インパラの家族が描かれています。オレンジや黄色を中心とした温かな色彩が印象的で、木々の柔らかなにじみと、手前のインパラの力強いシルエットとの対比が見事です。背景をあえてぼかしながら描くことで奥行きが生まれ、インパラたちの存在感がより際立っています。

2枚目(左下)の作品は、川(湖?)のほとりに集うさまざまな動物たちが描かれています。キリンやゾウをはじめとした動物たちが一本の地平線上に並び、その向こうには鮮やかな空が広がります。黄色や緑、紫、青といった多彩な色が重なり合い、水彩ならではの透明感が感じられます。水面に映り込む景色も美しく、爽やかで心地よい朝日のようにも感じます。

そして3枚目(右下)の作品では、同じく川を前景にした構図の中で、主役がゾウの群れへと移り変わっています。親ゾウに寄り添う小さなゾウの姿も見られ、群れの温かさや生命の営みが感じられます。暗い空には力強い光が描かれ、その光が水面へ反射することで幻想的な雰囲気を生み出しています。2枚目と似た構図に挑戦しながらも、色彩やモチーフの変化によってまったく異なる印象に仕上がっているのが興味深いです。

3作品を通して感じたのは、アフリカの雄大な自然と、多様な動物たちが共存する風景の魅力です。短時間で制作したことによる、粗く大胆なにじみや重なりの表現が思い切りよく、かの地の空気や光を想像させます。事実を記録するだけでなく、佐藤さんのトリミングや構成によって、ドキュメンタリー映画を見ているような感情を揺さぶる連作になりました!

台風

明日は台風の予報ですが、当校は休講いたしません。
ご無理なさらず、ご自身の判断で出欠を決めてください。
欠席のご連絡が多数届くことが予想されますので、明日に限っては、ご連絡なくお休み頂いて結構です。
被害が少ない事を祈ります。

小学校受験・夏期講習

6月になりましたので、夏休みの講座のご案内をさせて頂きます。
第一弾は、年中・年長対象の小学校受験の夏期講習『住みたいおうち制作』のご紹介です。
親子で別れて建築物を制作し、完成後に意見交換タイムを設けます。制作中はカーテンで間仕切りし、お互いを見えなくしますので、ワクワクしながら相手の制作物を想像して欲しいと思います。

まずは紙(画用紙・折り紙)や廃材(紙皿・紙コップ)を使って建築物を作ります。(上記写真は小学生の作品です)
本体となる大きな立体を作る際の、基本的な形の作り方・丈夫なセロテープの貼り方・大作を制作する際の作業効率を考えた机上整理術を覚えます。
次に簡単でも目を惹く立体造形(飾り)の作り方・付け方をアドバイスします。オリジナリティーのあるアイデアを出すコツを掴みましょう。

保護者様達には、材料・道具をお渡ししますので、自由に制作して頂きます。美術に自信がない方も大丈夫。親が上手過ぎると、逆にやる気がなくなる子もいますので、わざと下手に作って頂いても良いと思っております。

最近の受験では『お尋ね』と言われるテスターとの質疑応答が合否に影響します。親子でお互いの作品をプレゼン・質問をし合い、相手の理解をどのように深めて行けば良いか考えていきます。
『お尋ね』の詳しい記事はこちら

日 程:7月22日(水)
時 間:13:40-14:50
対象:小学校受験予定児の保護者(幼児教室などの絵画指導者も受講可能)
参加費:8,000円
持物: 作品を持ち帰る為の袋

小学校受験 夏期講習 参加方法
下記の必要事項を明記の上、メールの件名を『小学校受験夏期講習申込』として、送付してください。
 ①お子様の氏名と参加される保護者の氏名
 ②学年( 年中・年長)・幼稚園名
 ③電話番号・住所
をご連絡ください。定員がございますので、参加可能かどうかを返信いたします。参加可能の場合、お申し込みの確認と規約・振込み方法を貼付しますので、こちらからの返信後1週間以内にご入金ください。ご入金確認後正式申し込みとなります。
(ご注意)    
※講座開催日程5日前を過ぎてからのキャンセルは返金できませんが、日程の変更は定員に達していない日時に限り承ります。(今後、幼児クラスのワークショップも順次お知らせします。)
※キャンセル返金はご指定の口座に、振込み手数料を抜いた金額で振込ませて頂きます。
※お子様がぐずってしまい、全く制作ができなかった場合の、払戻し・振替には応じられません。

トリミングの魅力

御影 油彩

サトルです!今回は御影さんの油絵をご紹介します。
大胆なタッチで絵の具を厚く盛り上げるように描かれていて、一見抽象絵画に思えますが、具象絵画です。まず、何を描いているのか想像してみてください。なんとなくいろんなものが見えてくる気がしませんか?こうして作品を見ながら想像を膨らませるのも、絵画鑑賞の楽しみ方だと思います。

では、一体何を描いたのか。答えは「木星の地表」です。答えを聞くと、一気にリアルに見えて来たでしょう。木星の表面に渦巻いたガスが上手く捉えられています。普通星を描くとしたら全体を捉え、分かりやすい様に描きますよね。しかし御影さんはあえてズームアップし、何を描いているのか分かりにくくする事で、謎掛け的な面白さと、抽象絵画の様な魅力、さらには答えを聞いた時に感じるリアリティを共存させました。
こちらの作品がギャラリーに展示してある姿を想像すると、「何を描いているんだろう?」と気になった人たちが目の前で立ち止まって鑑賞し、キャプションを見て何を描いたかに気づき驚愕する姿が目に浮かびます。景色の切り取り方一つでここまで魅力的な作品になるのですね。

絵の具の扱い方も遊び心があって魅力的。筆跡を上手く使った表現や、ナイフで盛り上げた迫力のあるタッチなど、このモチーフだからこそ出来る技法が幅広く使い分けられていて、どうやって描いてあるのだろう?と隅々まで見てしまいます。キャンバスの上で絵具が混ざっていたり、複雑に色彩が入り組んでいて、細かい所まで単調にならないように描かれていますね。

美術館に訪れた人が一枚の作品を見る平均の時間は、約10〜20秒程度と言われています。良い作品は鑑賞者の足を止め、長い時間鑑賞させることが出来る作品だと考えると、御影さんの作品は、まさに長時間鑑賞者を引きつける事が出来る作品ではないでしょうか。見れば見るほど深みが出てくる、面白さと魅力の詰まった作品だと思います。

油彩への挑戦

小嶋 上2枚-油彩 下-透明水彩

大竹です。今回ご紹介させていただくのは、小嶋さんの油彩作品と水彩作品です。
上段の二点は油彩作品で、左が初めての油絵、右が二作目となります。

左の初めての油彩作品では、絵の具の混色や重ね塗りを試しながら制作された様子が伝わってきます。背景には様々な色が散りばめられていますが、単に木々や花を描写したというよりも、自然界の持つ豊かな色彩そのものを表現しているようにも感じられますね。柔らかな色調でまとめられていながらも、油絵具ならではの深みがあるため、決して弱い印象にはなっていません。また、背景が細かな筆遣いと豊富な色彩で構成されているのに対し、主役である小鳥は白と藍色を中心としたシンプルな色でまとめられています。その対比によって画面に心地よいメリハリが生まれ、小鳥の存在が自然と目に入ってくるバランスの良さも魅力ですね。
二作目では、一作目と比べて空間の広がりや空気感が大きく増しています。枝にとまる小鳥の周囲には木漏れ日のような光が差し込み、画面の奥行きを感じさせますね。手前は絵の具を厚く塗り、背景は薄く仕上げる等、絵の具の厚みや色の重なり方にも工夫が見られます。ふっくらとした羽毛の柔らかさや、陽の光を受けた温かさもよく表現されており、二作品を並べてみても油絵具の扱いにも慣れ、表現の幅が広がっているのが分かりますね!

下段は透明水彩で描かれた千手観音の作品です。こちらは先ほどの油彩とはまた違った魅力がありますね。観音様は大胆にデフォルメされ、どこか親しみやすいイラストのような姿で描かれています。一方で、周囲の蓮や建物、風景は比較的現実的な描写でまとめられており、その対比が面白いですね。色数もあえて抑えられているため、主役である観音様が画面の中で自然と目を引くよう工夫されています。
観音様という本来は荘厳な存在を描きながらも、どこか親しみやすさが感じられるのも印象的です。神々しさと可愛らしさ、その両方が絶妙なバランスで共存しているのでしょう。
海外では、このようなデフォルメされたミニキャラクターのことを「Chibi(チビ)」と日本語のまま呼ぶそうです。日本では古くから人や動物、果てには無機物までもをキャラクター化する文化が育まれてきました。小嶋さんの作品もまた、そうした日本人らしい感性が自然と表れている一枚なのかもしれません。

油彩では自然の豊かな色彩を、水彩では親しみやすい観音様の世界を。それぞれ異なる表現でありながら、見た人が穏やかな気持ちになれる温かみを持っています。それはきっと、作者が身の回りのものへ向ける温かなまなざしを、作品を通じて私たちも感じ取っているからなのでしょう。

たゆたう波打ち際

高橋Y 油彩

湿気に初夏を感じています、夏波です!今回は大人クラスの高橋さんの2枚目の油彩を紹介します。
朝焼けでしょうか、陽の光を反射してキラキラと輝く海が美しいですね。まず目を引くのは、繊細な色の重なりが美しい波打ち際です。何層にも色を乗せたおかげで様々な色が細かく入り交じっており、プリズムの反射を連想させます。細い筆で何度も描くことで凹凸ができ、下の層に置いた色を完全に潰すことなく隙間が見えますが、このテクニックは波のゆらめきととても相性が良いです。白波の動きに合わせて筆を動かし、一切気の緩みを感じない筆致が鑑賞者に緊張感を与え、画面全体の粗密が心地良いですね。

私が一番魅力的だと思うのは白波。中央の勢いよく弾ける波に目が奪われてしまいました。周囲の鮮やかな色彩の中でも、ひときわ明るいハイライトの白で厚みをつけることで、存在感を放ちます。
黒を使う箇所を絞っており、見せ場となる白波の下には強い黒色で締め、左下手前の濡れた砂浜や奥のビル群には、しっとりとやわらかいダークカラーを使っています。暗い色の置き方が非常に上手く、視線が自然と誘導されてしまいます。
そして何より、横に真っ直ぐと水平線を入れるのではなく、あえて斜めに傾けたことにより、ドラマチックな構成となりました。安定感が崩れる分、圧倒的な奥行きを感じさせます。

作者の優しく丁寧なお人柄が反映され、温かく穏やかな空気感が伝わってきます。一方で、現実の風景でありながらも幻想的な雰囲気をまとっており、ゆったりと時間が流れる別世界を覗いているかのような感覚を覚えます。打ち寄せては帰って行く波の動きや、波の音しか聞こえない空間の静けさが、見る人の感情に静かに寄り添い、引き込んでいくようです。想像力を掻き立てる魅力的な作品となりましたね。

記憶と重なる絵画

成松 透明水彩

本日が誕生日の大志です。昨年二十歳になったと思ってから、あっという間の1年でした。今年も頑張りますのでよろしくお願いします!

今回ご紹介する成松さんの透明水彩作品は、前回、4ヶ月前に描いた絵の続きのような一枚。(前回の絵はこちら)イギリスでのピクニック風景でしょうか?広がる草原の中を歩く三人の姿が描かれていて、鮮やかな緑の風景に対して空には重たそうに広がる雲。その合間から覗く青空が印象的で、天気が移り変わる直前のような、少し湿度を含んだ空気感まで伝わってくる作品です。

草原部分には細かな筆致が重ねられており、水彩特有の滲みや色の混ざりによって、風に揺れる草の柔らかさが表現できています。一方で空は、筆に水をたっぷり含ませた大胆なにじみを活かし、雲の厚みや風の流れを感じさせます。濃く色を置く部分と、あえて白い紙を透かしたり残している部分とのメリハリが美しいですね。またにじみと対比する、水彩の約束の一つ「乾く前に触らない」という場所も作り、瑞々しい透明感を活かした魅力が画面全体に広がっています。

前作同様に人物の描き方も印象的で、表情を細かく描き込まず、見る人それぞれが物語を想像できる余白が生まれています。家族での散歩なのか、旅の途中なのか、それとも休日の何気ない時間なのか、、、静かな風景の中に、小さな会話や足音まで聞こえてきそうです。

どこかヨーロッパののどかな丘陵地帯や田園風景のようでもあり、同時に、昔どこかで見た記憶の景色のようにも感じられ、懐かしさや愛おしさを覚えます。見る人自身の心の中の風景を投影させて、思い出と重なりながら穏やかな時間を運んでくれる作品。心に直接語りかけてくるようです。